旅立ち
シンは日々シュバとの狩りごっこにあけくれていた。シュバは冒険者になるためひたむきに前を向いていた。
シンはそんなシュバを見ながら、大きな心配事があった。これまでこの世界に転生してから3人の母親がいる。その最初のゴブリンの母親のことが、どうしても心残りである。
シンはマルオであったとき、「迎えに来る」という書置きを残して母に何も告げずに洞窟を飛びだしてしまっている。
ゴブリンの寿命は10年だ!もう時間がない!シンは焦っていた。
「シュバ様! お話があります!」
シンは思いつめた声でシュバに話しかけた。
「私に暇をください。私にはいかねければならないところがあります」
シュバはしばらく黙って考え込んだ後、声を発した!
「シン、お前と俺は兄弟だと俺は思っている。行きたいところがあればいつでも行けばいいし、オレに頼みごとがあるならいつでもなんでも言ってくるがいい」
シュバはさらに続けた。
「だから、今お前がどこに行って何をしたいのかはわからないが、オレは力の限りお前を応援する!」
「ありがとうございます! シュバ様のことは一生お守りします!」
シンは涙を流しながら心からの感謝の言葉を伝えた。シュバはシュバインではないかと、これまでの自分の疑念について、ありえないとあらためて確信した。「あの強欲なシュバインがこんなこと言うはずがない」と思ってからである。
翌朝、シンは最低限の荷物だけをもって屋敷の玄関にいた。
「シン、行くのか!」
シュバだった。
「シュバ様、行ってまいります」
シンの目は固い決心にあふれていた。
「シン、これを持っていけ」
シュバは重そうな麻袋をシンに投げ渡した。
「これは、こんなものを頂くわけにはまいりません」
袋の中には金貨が100枚ほど入っていた。
「お前はオレの兄弟だ、遠慮なく持っていけ!」
シュバは胸を張って、精一杯かっこつけていた。
はた目から見れば、3歳児同士の会話である。
「ありがとうございます」
シンは麻袋を懐に入れ、さっそうと走り出した。
「さみしくなるな! きっと帰って来いよ」
シュバの目には光るものガあった。