避難訓練
「あの人おかしくない・・・・」
1人の男子学生が噂の的になっていた。お披露目会で青白い炎魔法を使った長身の学生であった。彼の名はマハ!
マハは皆が自分の噂をしているのは知っていたが、特に気にする様子もなく、いつもと変わらず授業を受けている。
もともと入学してから、そのコミュニケーション能力の低さから友達ができることもなく、うわさが生まれる前と何ら変わらなかった。
彼の一件不気味に見える外見も一因であったが、その異様な人見知りがこの噂を招いた原因であった。
「やっぱりあいつが犯人なのかな?」
セリアはお菓子を食べながら隣に座るイシンに話しかけた。
「彼はそんな悪い人にはみえないけどな・・・・それよりセリア教室でおかし食べたらだめだよ!」
イシンにはマハよりもセリアの方がよほど問題児に見えるくらいだった。
実際マハは自由席の教室でいつも最前列に座り無遅刻無欠席であった。
イシンも本当は最前列で授業を聞きたかったが、セリアにいつも無理やり最後列の席に一緒に座らされていた。
「ピンポンパンポン」
まだ授業開始までには少し時間があるがいきなりチャイムが鳴った。
「えー、突然ですが、全校生徒にお知らせです! ただいまより避難訓練を開始します」
「訓練はクラスごとに行いますので呼ばれたクラスの学生は大講堂に移動をお願いします! それまでは教室で待機してください!」
「ピンポンパンポン」
「訓練だって!」
「なんなの突然」
「めんどくさいな!」
教室内では様々な声が上がってざわついている。
「イシン、訓練なんかより、もっと面白いことしてほしいわよね!」
セリアは肘をついて、相変わらずお菓子を口いっぱいにほおばりながら話している。
「そ、そうだね・・・・」
イシンは何か嫌な感じがしていた。
どうやら他のクラスで訓練が始まってらしく教室の外がざわついていた。何人かの生徒は廊下に出てその様子を眺めていた。
しばらくすると、イシン達のクラスの順番が回ってきたようだ。一人の案内役の教師が教室にやってきた。
「次はこのクラスの順番だ! 静かに大講堂まで移動するように!」
案内役の教師は何以下緊張しているようだった。
「仕方ない、行くか!」
セリアは少しだるそうに席を立った。
イシン達は皆だらだらと大講堂に向かって歩き出した。
大講堂の入口付近には何故か複数の警備員が配置されていた。生徒たちは事件のせいで警備が強化されたと思い、特に不審に思うものはいなかった。
しかし大講堂に入ってその異様な雰囲気に学生たちは一様に緊張で体をこわばらせた。
大講堂の周囲には数十人の警備員が等間隔で配置され、学生たちが入ると入口の扉が閉められ、演壇には教師の他に20人ほどの魔導士服の者が立っていた。
「イシン、一体何が始まるの?」
セリアは異様な雰囲気にイシンにしがみついて、震えている。
「わからないけど僕から離れないで!」
イシンはセリアを片手で抱きしめた。
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