無職
テオがシンになって1晩が明けた。
昨晩伯爵邸を襲撃した賊は騎士団によって全員打ち取られたが、襲撃の際に賊と格闘した伯爵はその時の傷により昨晩なくなってしまった。
一夜にして主人と跡取りを二人ともなくしてしまった伯爵邸は悲しみに沈んでいた。
このような場合、通常この国では、伯爵領自体没収し王領に復するか、よくても有力な親族の貴族の領土になるのが習わしである。
「私はこれからどうすればいいの!」
夫と子をなくし、屋敷からも追い出される可能性が高い伯爵夫人は途方に暮れていた!
そんな時、賊の襲撃にもかかわらず、傷一つなかったシンと、帰れば優しい夫と小さいながらも住む家があるシンの母親が目に入った!
「私がこんなに不幸なのに、あの親子はなぜ生きているの!」
「あの親子が憎い! あの親子を追い出しなさい!」
シン親子は伯爵夫人の理不尽な嫉妬から屋敷から罪人のように追放された!
「シン、あなたが無事でよかった!」
シンの母親は理不尽な伯爵夫人の行いを責めることもなく、シンの無事を喜んでいた。
「さあ、シンお家に帰ろうか!」
シンは優しい母親の腕に包まれてほっこりした気分になっていた。
「家についたわよ、シン!」
シンは明らかにがっかりした気分になった。テオになって吸血鬼とはいえ、立派なお屋敷で伯爵の嫡男、母はハリウッド女優のようなきれいな金髪に青い目をしていた。もちろんテオ自身も赤ん坊ながら金髪青い目の美少年であった。
ゴブリンであったテオは憧れの人間社会の上流貴族で、外見も完璧な自分自身について、将来も含めてとても満足していた。まさにテオが求めていたものだった。
「なんだ、このボロ屋は! ゴブリンだったころのオレの部屋の方が綺麗かもしれない」
テオは心の中で叫んだ!
「この外見も不満だ!せっかく美少年になったのに、だんごっ鼻の色黒な冴えない風貌じゃないか!」
かつてテオは横に寝ていたシンをみて、赤ん坊ながら優越感に浸っていた。
「さあ、シン今日からここがあなたのベッドよ」
シンはこれまでのフカフカベッドとは異なる、木で作られたみすぼらしい箱に寝かせられた。
「いつまでも嘆いていても仕方ない! 命が助かっただけでも良しとしよう!」
「そうだ、新しいオレのレベルを確認してみよう!」
名前 シン
種族 人間
レベル 1
身分 平民
「まあ、そうだよな!奴隷とか農奴じゃなくて、良しとするか!」
シンが自らのレベルに納得していると、シンの両親の話声が聞こえた。
「何があったんだ?」
シンの父親が母親に尋ねている。母親は昨夜の出来事、今朝の伯爵夫人の仕打ちを父親に伝えた。
「そうか、お前たちが無事なのはよかったが、そうなると我が家は今日から二人とも無職になるだろうな」
シンの父親は、伯爵領の庭の手入れをする庭師見習いの1人であった。昨夜は仕事を終えて自宅に帰ってきていた。
「そうね、だけど親子3人元気なら、何したって生きていけるわ」
シンの両親は力を合わせて生きていこうと誓い合った。
それを聞いていたシンはまたまた大きなため息をついていた。
「赤ん坊抱えて無職って!これはかなり厳しい状況だ・・・・」
シンは早く自分が大人にならなければならないとこの家は立ち行かないと考えていた!