熱弁
「ゴトン殿! どういうことですか?」
ゴトン達のただならぬ雰囲気にゴブリンのリーダーが駆け寄ってきた。
ゴトンは引き渡し名簿をリーダーに示した。
「我々はこの村にいる人族をすべて引き取りに来たのだ! 2名だけとはどういうことだ!」
ゴトンはリーダーに詰め寄った。
「ゴトン殿、あなたは誤解している! 我々はすべての人族に対してマウント国への帰還を促しました。」
リーダーは慌ててゴトンに説明した。
「リーダーのおっしゃることは本当です!」
40代の人族の女性がゴトンに話しかけてきた。
「私たちが望んでここに残ることにしたんです!」
他の人族も次々とゴトン達に説明を始めた。みなゴブリンたちに強要されたわけではなく、この村に残りたいのだという!
ゴトンたちと一緒に村を離れたいという2人は王宮で働いてみたいという若者ならではのものであった。
「皆さんが自らの意思でこの村に残りたいということは理解しました。しかしこの村はマウント国の統治を離れています。この村に残るということはゴブリン国の国民になるということです! 今後皆さんがマウント国に復帰したいと思ってもすぐに復帰できないことも考えられます。それでもよろしいのですか!」
ゴトンは村の人族に対して、熱弁を振るった。ニッカ達はただ周りで見ているしかなかった。
「隊長さん、あなたが私たちの事を思っていってくれたのは、わかります! ありがとうございます。 それでも私たちはこの村に残ります!」
一人の女性が村人を代表するようにゴトンに語った。他の村人たちも無言で頷いた。
「わかりました。しかしあなた方はマウント国民です。いつでもこの村を出たいと思ったら、声をあげてください」
ゴトンはやはり熱い男だった。
続いてゴトンはゴブリンリーダーに向かって話しかけた。
「先ほどは失礼な態度をとってしまい申し訳ありませんでした」
ゴトンは深々と頭を下げた。ニッカ達もそれを見て、同じように頭を下げた。
「どうか村人の事をよろしくお願いいたします」
ゴトンは最後まで村人の事を考えていた。
「ご心配なのは重々わかります。我々も人族の人達が幸せにこの村で過ごせるように努力します」
ゴブリンリーダーもゴトンに対して頭を下げた。シュバはその光景を見て、ついこの間まで、戦争をしていた相手とはとても思えなかった。
ゴトン隊に引き取られた2名の送迎会が簡単に村の門の前で行われたあと、ゴトンを先頭に2名の人族を含めたゴトン隊は王都に出発した。
「ゴトン隊長の熱弁、感動しました」
ニッカがゴトンに語り掛けた。
「私はこの判断が正しかったのか、今でもわかりません。 無理にでも彼らを引き取るべきだったのかもしれません・・・・」
ゴトンは今でも迷いながら歩を進めていた。確かに今現在彼らは心から村に残りたいと思っているかもしれない。しかし、今後情勢の変化や彼らに対する扱いの変化が起こらないとも限らない。ゴトンはそれを心配していた。
「選択したのは彼らです・・・・」
ニッカは、そういうのが精一杯だった。
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