お別れの会
ゴトン達は村で唯一の小さな宿屋に宿泊した。歓迎会で少し飲みすぎたゴトン達は、日がずいぶん昇ってから、1階の食堂にやってきた。食堂では奥で50代の人の男性が料理を担当し、ゴブリンの若い女性が給仕を行っている。
「キキキ」
「おはようございますといっております」
ナジルが給仕の女性ゴブリンの通訳をしてくれた。
ゴブリンの女性は簡単な朝食をゴトン達のもとに運んできた。
「キーキキ」
「ごゆっくりといっております」
ゴブリンの女性は軽く会釈をして奥に入っていった。
ゴトン達は少し戸惑いながらも、朝食を言葉少なに食べた。みな少し飲みすぎで二日酔い気味のようだ。
「普通の人の村でも、こんなに穏やかな村は少ないな!」
イオが誰も話をしない中、独り言のように話をした。
「確かにイオの言う通りだ! オレは少しゴブリンの事を誤解していたのかもな」
酒を飲んでいないシュバが、イオの話に答えた。
2人の話をきいて、ナジルが複雑な顔をしている。
「食事が終わったら、村の公会堂で人族の引き渡しを行います」
ナジルがゴトン達に伝えた。昨日からの歓迎会等ですっかり目的を忘れていたゴトン達は、改めてナジルから引き渡しという言葉を聞いて、身を引きしまえた。
ゴトン達はナジルの案内で食事を終えると公会堂にやってきた。小中学校の体育館のような建物で、ほとんどの村人やゴブリンが集まっていた。
「キッキキキキキ」
ステージに登ったゴブリンが何やらあいさつした。村の人間やゴブリンが皆拍手した。
「ようこそいらっしゃいましたといっております」
ナジルが通訳をしてくれた。
続いてゴトンがステージに上がるように誘導された。ゴトンは恥ずかしがりながらステージに上がって簡単にあいさつを済ませた。
「キキーキ」
司会のゴブリンが何かを案内した。
「村を離れる人たちの挨拶とのことです」
ナジルがすぐに通訳してくれている。
10代後半の男性と、20代前半の女性がステージに上がった。ゴトン達は代表してあいさつすると判断した。
2人は涙ながらに別れの挨拶をした。聞いていた村の人だけでなくゴブリンたちも涙を流しながら別れを惜しんでいる。
ゴトン達は不思議な気分になった。自分たちがゴブリンと人族を引き離すような気分になったのだ。
「キキキ」
ゴブリンリーダーの閉会の言葉で引き渡しイベントが終了した。
ゴトン達は、宿屋で出発の準備を終えて、村の人たちを村の門の前で待っていた。
村の前には村中の人とゴブリンが集まっている。皆別れを惜しんでいた。
「これが、今回引き渡される人族です」
ナジルが名簿をゴトンに渡した。
「えっ! どういうことだ!」
ゴトンがもらった書類には2人の名前しか書いていなかった。先ほどステージに上がった2名である。
ゴトンは剣の柄に手をかけて警戒した。やはりゴブリンたちは、人族を解放する気がないようだった。
ゴトンの気配を察知したニッカ達もみな臨戦態勢になった。
和気あいあいした雰囲気だった村の門の前の広場は突如ピリピリしたムードになった!
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