別れ
カチンはミト王に従っていた兵をほぼ討ち取って、ゆうゆうとゴブリン城に入場した。ゴブリン城でカチンを迎えたのは軍師マグマグであった。
マグマグは以前からゴブリン城内の兵たちを密かに取り込みいつでも反乱を起こさせるように手筈を整えていた。
ミト王に忠誠を誓っていた数千の精鋭部隊を裏切らせることはできなかったため、今回の作戦で殲滅することにしたのであった。
ミト直属の四天王が全員いなくなっていたのは、マグマグにとっても楽に事が運んだ大きな要因になった。
マグマグはミトが出陣してすぐにゴブリン城に入り、事前に話を固めていたゴブリンナイトたちとともにゴブリン城を占拠し、自軍に引き込んだのであった。
カチンは主のいなくなったゴブリン城の玉座に腰をおろした。
「カチン王、おめでとうございます」
マグマグは深々と頭を下げて、カチンの王就任を宣言した。
正式な就任式は先になるが、この時点でカチンがゴブリン国の王位につき、ミト王は廃位することになった。
続いて王の間に入ってきたのは、なんとセロ将軍であった。
「カチン王、おめでとうございます」
この時点でゴブリン国は正式に他国から認められる国になった。
カチンとセロは、正確にはラオとマグマグであるが、戦争の開始以前から裏で条約を結んでいた。
マウント王国はゴブリン国を正式に国と認め国交を結ぶ。そして現状のゴブリン国の占領地をゴブリン国の領地とする。
ゴブリン国はマウント王国への侵攻を今後永久に行わない。現状の領地から、奴隷状態になっている人族を解放する。冒険者を殲滅すること。
カチンがミトを裏切ったことを除けば友好的な条約であり、双方にとって決して悪い話ではない。しかし1点ラオが譲らなかったのは、カチンによる冒険者の殲滅計画であった。
ゴブリンの侵攻によりマウント国内での冒険者の勢力が強くなり、国の威信を保つため冒険者を減らしたかったのだ。そのため、より強い冒険者1000名を殺害することをラオはカチンに厳命させた。
「カチン王よ、われらはこれで引き上げるとするが、しっかりと約束を果たされよ!」
ラオはカチンの目を見て話した。
「わかっておるわ! もろもろのことはマグマグに任せておる」
カチンとしても、いつまでも人間と争わず、ゴブリンが平和に暮らせる国を作りたかった。ミトとの確執がなければ、カチンは心優しい王の資質を十分に持っている立派な男であった。
セロ将軍率いるマウント軍は第2騎士団100名と冒険者200人を残して本国に帰っていった。残った兵たちは、もともと本陣だった丘に大使館を作り、さらに解放された人族の受け取り業務のため数カ月残ることになった。
ニッカやシュバ達は居残り組であったが、デン、クニの2名は約束通り騎士見習いとして王都に向かうことになった。
「なんだか申しわかないなオレたちだけ!」
クニはうれしさで顔がにやけていたが、自分たちだけが王都で働けることにひけ目を感じていた。
「気にするな! おれたちは冒険者の方があってるからな! それにシンを迎えてやらないと!」
シュバは笑顔で2人を見送った。
「頑張れよ!」
イオは泣きながら手を振っている!
「イオも達者でな!」
デンも涙を流していた。
騎士団は当初ニッカとコンを騎士に誘ったのであったが、2人はきっぱりと断った。そのため余った枠でクニとデンが騎士見習いとして採用されたのであった。
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