葛藤
マルオの頭の中には竜王子の言葉が鳴り響いていた。
「人の魂をただ食らってもその人間になることはできない。その人間が弱っているとき、つまり死ぬ直前に魂を食らうことが必要だ」
本当にゲドウな行為だ!
つまり死にそうな人間を見つけて助けようとすることなく、その魂を食らえというのだ!
元気な人間でもダメ、人間を殺してしまってもダメというのだ。死にそうといっても、お年寄りの魂を食らったら、すぐにその体がだめになる。理想は子供の魂、赤ん坊の魂ならならいいということになる。
今マルオの手の中にはまさにその赤ん坊がいる。マルオは首を横に振った!
「おれは何を考えているんだ! こんなことしても麗華にどんな顔して会えばいいんだ!」
「おれが今しなければならないことは、この子を何としても助けることなんだ」
マルオは再び強く首を横に振った!
その時マルオの眼前に、これまで見たことがない丸い暖かいものが現れた!
「なんだ、これは! まさかこれが魂か!」
その言動と裏腹にマルオには魂が見えてしまった。それはマルオが心の中では魂を食らうことを求めていた証拠だった!
「おれは何考えてるん! だめだ! やめるんだ! だめだ!」
マルオは自分を責めた、責めておかしくなりそうだった!
「ああっ・・・・・・」
「・・・・・・」
マルオはこれまで感じたことがないような至福を感じていた。
それまでの罪悪感等まるで消えてしまっていた。ただひたすら目の前の魂を貪り食っていた!
「マルオ!」
マルオを見ていた、ドンテルは目の前のマルオが消えていく様を眺めていた。
マルオは魂を食べつくすと光の雫となり消えてしまった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「おぎゃおぎゃーっ」
あたりに赤ん坊の泣き声が響き渡った。
男たちに剣で刺され血まみれだった赤ん坊はすっかり元気になっていた。
「もしかして、マルオなのか!」
ドンテルは竜王の話はもちろん来ていた。しかし、目の前で行った現実が信じられないでいた。
ドンテルはどうしていいかわからず赤ん坊の周りをぐるぐる走りまわっていた。
「あちらです!」
馬のひづめの音と男たちの声が赤ん坊とドンテルの方に近づいてきた。
立派な騎士風の男たち10人ほどであった!
「侍女はだめか!」
「坊ちゃんは、血まみれだが無傷のようだ!」
「このまま連れて帰るぞ!侍女の遺体も忘れずにな」
赤ん坊はひときわ立派な鎧を着た騎士風の男に抱えられ馬車に乗った。侍女の遺体も後続の馬車に積まれたようだ。
ドンテルはひっそりと赤ん坊が乗った馬車に忍び込んだ。
マルオはその時、赤ん坊の中にいた。
「おれは、この赤ん坊になったのか!確かに人間だった時の感覚だ!」
「だけど、だけど、何かこの体おかしい」
マルオは赤ん坊の体の大きな違和感に戸惑い、理解できずにいた。