姫
マルオは竜王子の話をきいて、大いに戸惑っていた。
確かに、強くなれない状況を打破したいし、再び人間になって麗華といつか結ばれたいという強い思いはあった。そのために、誰かの魂を消滅させてしまい、その魂を奪うことなど、望んでもいないし、何があってもしたくないし、そんなことをしたらそもそも麗華に合わせる顔がない!
マルオは下を向いたまま、動かなくなってしまった。
それを見て竜王子は話をつづけた。
「君が今感じているように、私もその話を亜神から聞いたとき、こんなことを私自身がするなんてことは考えられなかった。たとえ愛する姫と結ばれるためだとしてもだ!」
「しかし、私は弱かった・・・・」
「おそらく誰よりも・・・・」
「私は迷いに迷って、人の魂を・・・」
「竜王子・・・・」
マルオは竜王子の絞り出すような声を聴いて、ふとあることが疑問として浮かんだ!
「姫は・・・・」
「姫とは、その後どうなったのですか?」
竜王子の顔は一気にこわばった!
「私は結果として人の皮を被り、姫を連れて人間界からも魔族界からも逃げて、今いるこの地までたどり着いた。」
「私は、この地に山小屋を立てて、誰もおってこれないようにしてほしいと亜神に頼んだ。そしてこの地は吹雪に1年中包まれることとなった」
「私は、姫に亜神のこと、人間になった経緯など、すべてを話した! それを知った姫は大変なショックをうけ、私とは話をしてくれなくなった」
「そして、3日間泣き続けた後、姫は自ら命を絶ってしまった!」
「・・・・」
「私は姫の亡骸を見て、自らも死を選んで姫のもとへ行こうと思って、剣を自らの首元に突き付けた」
「しかし、私は・・・・」
「私は死ぬことはできなかった」
「私は姫に命をかけるなど言いながら、姫の後を追うことさえできない、みじめな男だ」
マルオは話を聞いて、竜王子を慰めようと思ったが、言葉が出てこなかった。
「それから100年がたったころ、この命が尽きようとしていた。私はやっと姫に会えると思っていた。」
「あの亜神が再び私の前にあらわれた!」
「亜神は、再び私に魂を食えと進めてきた。」
「その話を聞いて、私は一度は拒んだ、いや拒んだふりをしただけなのだろうか。おそらく亜神はそんな私のことを見抜いて笑っていたのだろう」
「私はまた魂を貪り食ってしまった。」
「2度、3度と・・・・」
「また100年ほど過ぎている・・・・」
「魔王も死んで今度こそ私は姫のもとへ行こうと決心している」
マルオはもはや人間になることはあきらめよう。そう考えていた。ゴブリンのままでも麗華はオレを愛してくれる・・・・そんなことを考えながら乾いた笑いがこぼれた。
「はは」
「竜王子よ、長々と悲劇にヒロインのような話をして、眠ってしまうところだったぞ」
ドンテルが突然声を出した。
「存在忘れてたよ! いたんだ!」
「眠ってしまうところではなくて、寝てたんだろう!」
マルオはドンテルを見て思った。
「そもそも魂を食うのはお前だけではないだろう! 悪魔は魂の契約をして食べたりしてるんじゃないのか!」
ドンテルは胸を張って話した。
おいおい空気読めよ!
マルオがそう思っていると、竜王子が、ドンテルに強い口調で話した。
「悪魔は契約をして魂を本人の同意のもと食べている。しかし私は、本人の同意なく、気が付くこともなく魂を食べている。その罪は比較にならない!」
マルオはドンテルを冷ややかな目で見て、今後のことに思いふけっていた。