愛のちから
「どういうことですか!」
マルオは竜王子に詰め寄った。
「あなたはドラゴンから、人間になったとききました。私が人間になれないのはゴブリンだからですか?!」
竜王子はしばらく窓の外の吹雪を眺めていた。
「人間になるのはドラゴンだとかゴブリンだとかそういうものは関係ないのだよ。変わろうとする魔族や魔物の置かれた状況とその思いの強さによる」
竜王子はゆっくりとだが、確かな口調で話し始めた。
「君がどこまで聞いているのかは知らないが、私は人間の国の姫と恋に落ちた。魔物と人の恋など、人間、魔族どちらからも認められるはずはなく、どちらかが、自分の種族を捨てるほかなかった、私はそれでもよかったし自分の命さえかけて姫を愛していた」
「そんな時、一人の亜神が私の前にあらわれた。彼の目的はわからないが、私に人になる方法を教えてくれた!」
「彼は、人間になるには特殊な状況が必要だということだった。人と魔物等の異種がそれぞれ、運命という出会いをし、命を懸けてひかれあう。そして自分たちではどうしようもないという状況に置かれ、それでもその状況を覆そうという強い思いが必要だと」
竜王子はマルオに問いた!
「魔王が死んで、君はゴブリンとしてこれ以上強くなれない状況に置かれた。君が強くなるために人間になろうというのはわかった。だが強くなるためだけでは魔物である君は人にはなれないのだよ!」
「生まれたばかりの君が人間と生死をかけた愛を育んでいない今、諦めるしかない」
そういうと、獣の死体を握りしめ竜王子はキッチンに向かっていった。
マルオは竜王子の話を聞いて考えていた、確かに僕はゴブリンとして生まれて人間の女性と恋などしてないし、そもそも話をしたこともない。だがゴブリンとして転生する以前、健一として麗華との結婚式直前に死亡して今に至る。人間になって、再び麗華と結ばれたいという思いはだれにも負けていない。
マルオはキッチンに向けて歩き出した
竜王子に大きな声で応えた。
「私は人間の女性とあなたに負けない恋をして、誰よりも人間になりたいという思いは強い!私以外にあなたの話す条件にぴったりの魔物等いるはずがありません」
そういうとマルオは前世での麗華との事や結婚式直前に転生した事を竜王に話した。
竜王子は話を聞いて、納得したようだった。
「君の話は分かった。確かに条件は満たすようだな! あとは、君が魔族を裏切って人間になる覚悟と、もう一つ・・・・」
竜王子はどうしてもこれ以上話すのをためらっていた。
「頼みます! 僕の覚悟は変わりません。どんなことを聞いても僕は驚きません」
「・・・・」
「・・・・」
「わかった! 君からみて私は何に見える?」
「人間のおじいさんです」
マルオは答えた。
「そうだな。外見はな!」
「私は人であって人ではない!」
「私は人間の皮をかぶっている魔物にすぎないのだよ!」