策士ラオ
その日、ゴブリン城の前に5体の磔台が設置させた。
貼り付けられているのは偵察業務にあたっていたゴブリン達であった。
「なんだ、あれは!」
普段冷静沈着なミト王が激怒した。周りの部下たちは必死に王をなだめた。
「王、間もなくカチン将軍の部隊が到着されます。そうすれば奴らを挟撃して皆殺しにいたしましょう!」
王の側近達は、いつも厳しき冷たいミト王が、ゴブリンの磔というゴブリンたちの名誉を踏みつけるような行為をされたといっても、ここまで怒るとは思っていなかった。
側近たちのミト王を見る目はこの事態で奇しくも変わった。
翌日、今度はゴブリンの生首が5本の木の枝に刺さった状態でゴブリン城の前にさらされた!
「奴らめ! 許せん!」
ミトの怒りは尋常なものではなかった、今度は側近だけななく、将軍クラスの兵まで総動員してミト王を止めた。
このまま、同じようなことが続けばミト王を止められないと思った側近たちは、その日から24時間体制で、ゴブリン城の周りを警戒した。
翌日、ゴブリン城に向かってイノシシに似た魔物であるファングボア5体が突進してきた。その体には、ゴブリンのバラバラ死体が結び付けられていた。ファングボアはその血の匂いで狂ったように壁にぶつかっては絶命した。
「これ以上、止めるならそなたたちを斬る!」
ミト王の気迫に側近たちは近づくこともできずに、ただ見守ることしかできなかった。
ミト王はただ一騎のみでマウント王国ゴブリン討伐隊本部に駆け出した。
「将軍、奴が動きました」
ラオ軍師は口角をあげて、セロ将軍に報告した。
セロ将軍は精鋭20騎でミトを迎え撃った。
「ゴブリンの王よ、一人で来るとは自信があるのか馬鹿なのか?」
セロは余裕の表情でミトに相対した。
「武人としての誇りを持たぬ愚かな指揮官よ! 恥を知れ!」
セロはラオのやったことを正確には知らなかった。しかしミトの話を聞いて、いつものようにラオがまたろくでもないことをやったのだと、すぐに判断した。
「ゴブリンには、当然の仕打ちだ!」
セロの発言はミトの怒りをさらに増大させた。
その時、セロの傍らの騎士が1人前に進み出た。
「将軍、あんな小さなゴブリン私一人で問題ありません! 私にお任せください」
セロは無言で承諾した、その騎士は上司に媚を売ってのし上がってきたものであった。セロにとってはどうなってもよかった。
「頑張れよ!」
「負けんなよ!」
騎士たちは2人の戦いを盛り上げた。
ミトは馬に乗ったまま片手槍をもって無言で動かない。
セロはそんなミトの一挙手一投足を見逃すまいと注視していた。
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