シンシン村
「シュバ、生まれたぞ!」
クニがシュバを呼びに来た。
「お、今行く!」
シュバはとるものも取らず、赤ん坊の泣き声のする家に向かった。
シンシン村で生まれる初めての赤ん坊だ。
シンシン村は今では評判などを聞きつけゴブリンと人間のハーフだけでなく、亜人や、他の魔族とのハーフ等、迫害を受けている人が集まり30人ほどになっていた。
「おう、シュバ殿! 女の子ですぞ!」
オークと人間のハーフで医師のゴズンが赤ん坊をシュバに見せた。彼もまた、10日前にシンシン村に移住してきた一人である。
「シュバ殿も抱いてみなされ」
シュバは生まれたばかりの赤ん坊をはじめてその腕に抱いた。赤ん坊は肌が緑色という点を除けば、ほぼ普通の人間の赤ん坊と変わりはなかった。
「後は頼みます」
シュバは赤ん坊をゴズン医師に帰すと、村の議事堂に向かった。シュバ達とホブゴブリンが戦った屋敷を改修したものだ。
今日はシンシン村の第1回村民会議が開催される日である。
出席者はシュバ、クニ、デン、イオの他、移住してきたものの代表者5名である。
「お待たせしました!」
シュバが入室すると他のものは皆すでに席についていた。
「本日の第1の議題は村長についてです」
クニがいつもよりかしこまって司会をしている。
「私としては、当然シュバ殿にやっていただきたいと考えます」
移住者の一人である魚人のヤシがシュバを推薦した。
「申し訳ないが、オレとクニ、デン、イオは冒険者で村を離れることも多い。 村長はいつも村にいる移住者の方の中からお願いしたい」
シュバは村の創設者の中心人物である。通常なら当然に村長ということになるのであろうが、シュバの目的はシンを待つための拠点に村を作っただけであった。あくまで冒険者としての活動を優先したと考えていた。
村長は話し合いの結果、もともとシュバを推していた魚人のヤシに決定した。彼はカニの頭をした魚人族であるが、ヤシガニの魚人であるため、海の中に住むことができず、ずっと一人で生きてきた。
「私のようなものが村長でよいのか自信はないですが、選ばれたからには精一杯やらせていただきます」
ヤシは丁寧にあいさつした。
「オラたちも協力するから大丈夫だよ」
デンはヤシの肩をだいて、励ました。
「第2の議題は街の防衛についてです」
相変わらずクニの司会はかたっ苦しかった。
「我々冒険者は、もちろん防衛の中心的な役割を担いますが、この村はゴブリン国と接しており皆さん自身でも自分の身を守っていただきたい」
シュバの挨拶は手慣れたものであった。
「シュバ殿、村長として私が責任もって自警団を創設します」
ヤシは村長としてさっそくやる気を出していた。こうしてシンシン村は徐々にその形態を整えていった。
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