夜の作戦
ゴブリン国には数万体のゴブリンが存在する。その中にはカチンのようなゴブリンキングやゴブリンジェネラルといった上位種も存在するが、ほとんどのゴブリンは最下層のただのゴブリンである。
彼らの多くは満足に言葉も話せないし、戦闘力もないので数に物を言わせて対抗するしかないのである。
その最下層のゴブリングリードの中でも優劣が存在する。マグマグのように知能に優れ言葉も話せるものもいれば、ゴブリングリードなりにそれなりの戦闘力のものもいる。
ゴブリンの寿命は短いため、レベルを上げて強くなるというよりは、ほとんどが生まれながらの才能に依存していた。
最下層のゴブリングリードの中で、最低の才能しか持たず生まれてきたゴブリンがいた。彼にはもちろん名前もなければ、言葉も話せない。
上司からは、戦場で真っ先に死ぬ存在だと思われていた。しかし、その上司や同僚、新しい上司や同僚が次々死んでいく中で彼は生き残った。
彼はその才能のなさのおかげで、もちろん走るのも遅く、戦闘にかかわろうとしても、彼の前にはいつも大勢のゴブリンが壁をつくっていた。
つまり彼は、戦闘に参加するための才能すらなかったのであった。
生まれたのはヤマダ王国の王都である。彼の父や母兄弟たちは皆戦場で散っていった。家族で残ったのは彼だけである。
誰からも相手にされない彼は、どんどん田舎の街や村の警備に回されていった。
今ではゴブリン国最果ての小さな村の底辺の警備員であった。警備員といっても重要な任務を任せるわけにはいかないので、いつも警備員とは名ばかりの清掃作業のような仕事をしていた。つまりゴミ拾いである。
そんな彼が、彼の人生で初めて、命の危機に見舞われた。
彼は見てしまったのだ、夜の清掃作業の途中で、村の入口の見張りを担当していた3体のゴブリンが一瞬のうちに殺されてしまったのを・・・・
入口の見張りを担当していいた3人は彼から見れば、村を代表する屈強なゴブリンである。
彼は目が合ってしまった。見張りを殺害した一味の人間と・・・・イオであった。
「おい、お前!」
彼を発見したのはシュバとイオであった。ほんの一瞬イオの方が早かった。それが彼の運命を大きく変えた。おそらくシュバであったなら彼は初めての戦闘で名誉の戦死を遂げていたであろう。
イオは両手を彼に伸ばした
「まて、イオ! やめろ!」
シュバはそのポーズでいつものアレだと直感的にわかった。 これまで100%の確率で相手を激怒させたアレである。シュバは、この時直感的にわかった。これで、あのゴブリンは大声をあげて仲間を呼ぶだろう。そしてこの作戦は大失敗、村人の多くは、戦闘に巻き込まれて死傷することだろうと。
「従魔契約! オレの従魔になれー!」
イオはいつものアレをやってしまった!
淡い空気がゴブリンの彼を包んだ。
彼は、その空気に包まれて、不思議な気分になった。なんとも暖かく優しい気分に。
「ああ、僕は1人じゃない! やっと僕にも仲間ができるんだ!」
ゴブリンの彼は涙を流していた。
「もういい、オレがやる!」
シュバはイオのアレを許してしまった自分を責め、少しの可能性にかけてゴブリンが叫ぶ前に殺そうと駆け出していた。
「シュバまてーーっ!」
イオは必死にシュバを止めた。
しかしシュバは止まらない!
「ひいいいいいいっ」
必死の形相で剣を抜いて向かってくるシュバを見てゴブリンの彼は逃げ出した。
彼は弱いゆえにいつでも逃げられる抜け道には精通していた。すぐに細い抜け道に入ってしまい、シュバは彼を見失ってしまった。
「くそっ!」
シュバは深追いを危険だと判断し追うのを諦めた。
それを見てイオはホッとしていた。
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