カチンとラオ2
「確かにオレは人間だからとすぐに殺したりしない。 その証拠にラオ殿とは、よい関係を気付いているだろう!」
カチンは勝ち誇ったような表情をしている。
「はい、その通りです カチン将軍ならセロ将軍やブオ王も私が説得させていただきます」
ラオはカチンの手をしっかりと握っている。
「なに、あのセロ将軍までもが、オレに協力してくれると申すのか」
セロ将軍の強さはゴブリン軍の中でも有名だった。
「そ、そうか! これなら本格的にミトにも勝てそうな気がする」
すでにカチンはその気のようだ。
「勝てそうな気がするのではなく、勝てるのです」
「カチン将軍と私ラオ、セロ将軍が加われば、ミトなどあっという間に討伐できますぞ!」
ラオはカチンの顔のすぐ近くまで自身の顔を近づけている。内心ではゴブリンキングの顔が目の前にあるので吐き気がするほど嫌だったが、全くおくびにも出さない。
「それはありがたい! オレもミトなどに負けるはずがないと確信している。しかし、ひとつわからん事がある」
カチンは真剣表情で話し始めた。
「百歩譲って、ラオ殿はオレの心からの友人であるため、オレに協力してくれるのはわかるのだ! だが、セロ将軍やブオ王までもがゴブリンであるオレに協力してくれるものなのか?」
最もな事をカチンはラオに質問した。ラオは心からの友人といわれて吐き気がしていた。
「そこは、先ほども話しましたが、もはや人間と魔族どちらかという時代ではありません。ブオ王もセロ将軍も魔族と人間の共存の道を模索してます」
「魔族の中でもゴブリンは人間と同じように集団で生活し、魔族の中でも人間に近い種族です! 魔族と人間の共存社会のモデルとしてわれらの王国とカチン王との協力関係が世界に示されるのです」
ラオは一世一代の熱弁を振るった。ラオにとって魔族は敵以外の何物でもない、共存など1ミリも考えてはいなかった。
「素晴らしい! ラオ殿! さすがである!」
カチンは涙している。
「おれには、ラオ殿のように知識や知能がない、だが大親友のラオ殿がいれば何も怖いことはない! そうだ、いつまでも魔族と人間が殺し合いすることはないものな!」
「みんなが、オレとラオ殿のように心からのともになればよいのだ」
カチンは感極まり立ち上がって号泣している。
ラオはそのカチンの姿を見て、吐き気を抑えるのが精いっぱいである。
「そうです、将軍、いやカチン王! 」
ラオは必死に涙を流した。
しばらく抱擁して落ち着いたころ、再びラオは話を始めた。
「それでは、私はこれより城に戻りすぐにブオ王とセロ将軍と今後の作戦を練ります」
「カチン将軍にも、ひとつ頼みたい事があります」
ラオは再び真剣な表情になっている。
「な、なんだ心の友よ! 何でも言ってくれ! ラオ殿に死ねというならオレはいつでも死のう!」
カチンは本当に死んでくれそうだった。
「いえ、死んでもらっては困ります。カチン殿には我々とともに戦った頂かなければなりません!」
「カチン殿! われらの勝利をより盤石なものにするため、ミトの弱点を探ってもらいたい」
カチンは本当の目的にやっとたどり着いた。
「弱点? そんなものがあるのか・・・・」
カチンは途端に弱気になった。
「ただのゴブリンでありながら、あれだけの強さです。その強さの反動で、必ず何らかの弱点があるはずです! これは我らの勝利に欠かせないものになるは! カチン将軍、なにとぞ!」
ラオの言葉には力がこもっていた。
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