カチンとラオ
セロ将軍の部下も1人もつれずに軍師ラオは、ゴブリンがおさめる村の1つにいた。
「将軍、お久しぶりでございます」
ラオはずいぶん親しげに語りかけた。
「まあ、1杯飲め!」
ゴブリン軍第1大隊のカチン将軍は、ボトル1本金貨10枚の高級ワインをラオのグラスに注いだ。
「昼間から酒とは豪気ですな!」
ラオはワインを飲みながらカチン将軍と1対1で話している。
「まあな、ただ、あの王が色々とうるさいから飲まないとやってられんわ!」
カチンはずいぶんと不満がたまっているようだ。
「ミト王ですか! しかしゴブリン達にはずいぶん人気があるようですが」
ラオはあおるように話をふった。
「あいつが人気なのは下級の者たちにだけだ! われらゴブリンキングやゴブリンジェネラルクラスの者たちからは疎まれているわ!」
カチンは机をたたいて怒りを表した。2mを超えるゴブリンキングのカチンはオークのような立派な体躯をしている。
「また、それはどうして?」
カチンはなんだか嬉しそうだ。
「そんなもの決まっておろう。 あいつはゴブリンはすべて平等だとかぬかしやがって、上級クラスのゴブリンも下級クラスのゴブリンも同じように扱いやがる」
「かと思えば、自分は幹部クラスのゴブリンだろうが、ちょっと気に入らないとすぐ切りやがる」
カチンはここぞとばかりにうっ憤を晴らしている。
「それはひどいですね、将軍はそのままでよろしいのですか?」
ラオは顔は笑顔だが、目は笑っていない。
「おれとて、このまま手をこまねいているつもりはない! 機会さえあれば、王に進言するつもりだ」
カチンは真剣な顔だった。
「私から言わせてもらえば、もしも将軍がミト王に何か1言でも苦言を申されたなら、間違いなく殺されるでしょうな!」
ラオはしたり顔で話した。
「何っ!」
カチンはラオの発言に怒りをあらわにしながらも、事実を疲れて苦々しい表情をしている。
「いっそ、カチン将軍が王になられればよろしいのではありませんか! ミト王は強大な力をお持ちとは聞いてますが、所詮はゴブリングリード、本来なら一兵卒です。カチン将軍のようなゴブリンキングが王になることが当然でございましょう」
ラオはここぞとばかりに話した。
「おれとて、出来ることならそうしたい。だが王の力にはオレでは・・・・」
カチンは下を向いて、考え込んでしまった。
「カチン殿、何も1対1の果し合いをする必要はないのでは・・・・将軍のように多くの幹部が王の事をこころよく思っていないことでしょう。それにカチン将軍が立つとあれば、ラオが王国の兵率いて、将軍に協力いたしましょう」
ラオはカチンの表情を見て、必ず乗ってくると確信していた。
「ラオ殿はオレに協力してくれると! しかしいくらラオ殿といえど、王国の兵が我らゴブリンに協力するはずが・・・・」
カチンはラオの言葉が信じられなかった。
「将軍! われら王国もミト王には困っております。種族は違えど、同じ大陸にすむ者同士! 共存することはできるはずです。それがミト王はゴブリンの平等は唱えているが、人間と見るや、見境なしに殺すか奴隷にするかです! これでは共存などできるはずありません」
ラオはカチンの気持ちをうまく引き出そうとしている。
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