軍師ハイエ
「王の入場です」
案内の声が大広間に響いた。
「ぱちぱちぱち」
会場を拍手が鳴り響いた。
ゴブリン王ミトが王冠を被りマントを羽織って大広間に入場してきた。
後ろには2体のゴブリンジェネラルがミトの槍と剣をもって、それぞれ控えている。
ミトは玉座に鎮座し、手をあげた。
拍手が鳴りやんで、大広間は一斉に静かになった。
「ゴブリンによるゴブリンのためだけのゴブリン王国 ヤマダ王国の樹立をここに宣言する」
ミトは、もはや人間だった時の記憶はほとんどないが、頭の片隅に残っている「ヤマダ」という言葉が気になって国の名前とした。
「おおおおおおおっ」
静かだった、広間は一斉に歓声で一杯になった。
「我が国はいまだ小国である! 今後人間や他の魔族に何も言われない強固な国を作る!」
「そのための第1歩としてマウント王国を征服するのだ!」
ミトは堂々と王国の方針を宣言した。
「部隊はすでに、例の街に侵攻しております」
ミトの最も近くにいるゴブリンが声をかけてきた。彼はホブゴブリンであるが、ゴブリンジェネラル等を差し置いて、ゴブリン国の軍師に就任していた。
それほど頭の良くないゴブリンであるが、彼は頭脳明晰で、ゴブリン国建国に大いに貢献していた。
「軍師ハイエよ、そなたの事だから問題ないと思うが、人間どもも、ここまでわれらに侵攻されたら、何らかの手を打ってくるはずだ。決して油断はするな!」
ミトは他のゴブリンに対する態度とは明らかに違い丁寧に話をしていた。
「もちろんでございます。王よ。今回の侵攻には人間の奴隷化という我らの新しい目的があります! 将軍には、ラオカンを任命しております。」
軍師ハイエは自信満々で答えた。
「ハイエか、やつならば大丈夫であろう」
ミトはハイエのことを認めているようだ。
「コツンコツンコツン」
その時大広間にひときわ高い足音が響いた。
悪魔モーリエである。
「ミト王よ、王国建国おめでとう」
「ぱちぱちぱち」
モーリエの乾いた声が大広間に響き渡った。
ミト以外のゴブリンたちは突然の悪魔の出現に体が硬直し緊張感は最高潮まで高まった。
「・・・・」
ミトはモーリエの登場に不快感を隠さなかった。
「あなたはずいぶん変わりましたね。昔はあんなに素直だったのに!」
「うふふふふ」
モーリエの声は静かな大広間に響き渡っていた。
「何しに来た?」
ミトは低い声で質問した。
「もはや敬語もなしですか? まあ、あなたの態度は以前から上っ面だけの忠誠でしたから・・・・」
「いいでしょう・・・・あなたがどういおうと、ミトあなたを含めゴブリンの最下層の1兵まですべてガリウス様の所有物です。」
「そのことを、忘れぬように!」
モーリスはそれだけ話すと振り返り大広間を去っていった。
「ああ、最後に言い忘れていました。人間どもですか、少し面白いこと考えているようです」
モーリスは最後にそういうと少し笑みを浮かべ、大広間をあとにした。
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