ミトの夢
街はゴブリン軍に占拠され、魔族の拠点になった。
司令官のミトは街を城に変えるため、着々と建造を進めていた。
ゴブリンによるゴブリンのための初めての大きな拠点であった。
まさにミトの悲願である。人間たちに迫害され、魔族の中でもゴブリンというだけで馬鹿にされてきた。そんな、自分たちが、誰の力も借りずに人間の大きな街を落とし、城の建設をしている。
「司令官、とうとうやりましたな!」
ミトに10年以上従っている腹心が声をかけてきた。
「まだだ、これはほんの第一歩に過ぎない。われらは誰にも馬鹿にされないゴブリンのクニを作る! われらの邪魔をするものは誰であろうと打ち倒す! それが誰であろうと!」
ミトは固い決心を伝えた。
「誰であろうとですか・・・・」
腹心はミトの危うさを危惧していた。しかし、何があろうとミトについていき彼を支えようという決心は揺るがない。
「ミト様、モーリス様がお見えです」
ゴブリン兵の一人がミトに声をかけると同時に、その悪魔は部屋に入ってきた。
「ミトよ、ゴブリンにしてはなかなかやるな!」
「だが、私はこんな街が欲しかったわけではない!」
モーリスは怒っているようだ。
「申し訳ありません。引き続き捜索しております。」
「天使が邪魔さえしなければ・・・・」
ミトはモーリスに頭を下げながら話している。
「リコか」
モーリスは顎に指を添えてミトの周りをゆっくりと歩きながら話している。
「お前に力を与えたことを後悔させるでないぞ!」
モーリスはそういうと、一瞬で姿を消した。
「くそっ! 悪魔め!」
ミトは歯を食いしばりすぎて歯ぐきから血が流れていた。
ともに部屋にいたミトの腹心のゴブリンはモーリスの邪気にあてられ体中が震えていた。
「モーリス様のご指示ですが・・・・」
落ち着きを取り戻した腹心はミトに指示の確認をした。
ミトはモーリスの指示に反して、シンの捜索を部下にさせていなかった。
シンを連れ去ったのは、間違いなく天使である。天使と戦えば、ゴブリンなど、どれだけ数をそろえても蹂躙されてしまう。ミトは必要以上に兵を無駄に殺されたくなかったのだ。
「奴の言うこと等、それなりに聞いておけばよい! われらはこの城を完成後、この地域の人間の殲滅を行う!」
「ここにゴブリンの国を建国する!」
ミトは命をかけていた。
「はっ」
腹心は深々と頭を下げた。
ミト率いるゴブリン軍は周辺の村を次々と攻めた。
村の運命は様々であった。
死に物狂いで、ゴブリン軍と戦い皆殺しにあった村。
早々に降伏し、ゴブリンの支配下に入った村。
村を放棄し、住民全員がいなくなった村。
もはや周辺でゴブリン軍と戦える勢力は存在しなかった。
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