陥落
ゴブリン全軍は東西南北の門を一斉攻撃した。これまでの小競り合いではなく、まさしく総攻撃であった。
「大司祭、ゴブリンたちが・・・・」
報告を受けて大司祭は、南門にやってきた。
「こ、これは・・・・」
そこにはゴブリンの大群が今にも門を打ち破る勢いであった。
大司祭は、南門を守る隊長に声をかけた。
「私は、これから住民を街の外に避難させる」
「君たちはそれまでここを死守してくれ」
それはまさに死刑宣告であった。
住民を逃がすため、しんがりとして死んでくれというものだった。
大司祭は部下に住民の避難を指示し、自身は馬に乗った。他の門の隊長に同じ話をするためだ。
この話だけは、自らがしなければならないと感じていいたためである。
その間にもゴブリン軍の熾烈な攻撃は続いていた。門を守る兵士たちは次々と倒れていた。
大司祭の話を聞いた各門の隊長たちの反応は様々である。
「我々に死ねというのですか」
大司祭に理不尽だと訴えるもの。
「了解いたしました」
冷静に指示を受けるもの。
「・・・・・・」
声も出なくなるもの。
反応はみな違ったが、どの門の隊長も街の住民を守るため最終的には覚悟を決め、門の守備に就いた。
大司祭は心に来るものがあったが、決して涙は見せなかった。
住民たちは、遺跡の通路から取るものも取り敢えず、必死に街から脱出した。遺跡の外では騎士団が住民たちを誘導した。
「ばかっ」!
最後の住民が通路に入ったのを確認して、大司祭を通路の入口を爆薬で吹き飛ばした!
次の瞬間、ゴブリン軍が門を破壊し街に怒涛の如く乱入した。
門を守る聖騎士たちは、最後まで奮闘したが、大量のゴブリン兵に次々と倒されていった。
ゴブリン軍司令官ミトは馬に乗りゆっくりと街に入場した。
通路を破壊した大司祭は、直後ゴブリンに捕らえられ、ミトの前に引き立てられた。
「ほお、そなたがこの町の長か!」
「兵を犠牲にして住民を逃がすなど愚の骨頂だ!」
ミトは力ある者が力なき者の犠牲になるのが許せなかった。
「しかし、お前のその意義は認めよう」
ミトは馬を降り、大司祭の前に歩を進めた。
「バシュッ」
ミトは剣を横なぎに一閃、大司祭の首をはねた。
「コロコロコロ」
ミトは大司祭の転がった首を剣で突き刺し、その剣をゴブリン兵の一人に手渡した。
「この首を掲げよ」
シュバの父である大司祭の首は街の外からよく見えるように南門の上に掲げられた。
「ち、父上――――っ!」
森の陰から父の掲げられた首を見たシュバは絶叫した。
「シュバ、押さえろ」
デンはシュバをやさしく抱きしめた。