シンとミト
ミトはとてもやさしい人間だった。小動物を愛し、家族を愛し、隣人を愛していた。
ただ、少しコミュニケーションをとるのが苦手だっただけである。
この世界にゴブリンとして転生した後も、その優しさは変わっていなかった。どこまでも人間臭く、人間を愛していた。
そんなミトが変わってしまった。
愛する人間の手によって!
ミトの中で前世の人間を愛する感情は完全に消えていた。
「生きるために、死なないために人間を駆除しなければならない」
ミトの頭の中では、人間は完全に駆除対象に変わってしまった。
心優しいゴブリンを、人間が恐ろしい魔物に変えてしまったのだ。
ミトはゴブリンでありながら、その後、多くの騎士や冒険者を八つ裂きにしてきた。まさに最強のゴブリンになったのである。その強い精神力によって!
☆☆ ☆ ☆ ☆
再び現在に戻る。場所はゴブリン軍司令官のテントの中である。
「ざしゅっ」
ゴブリン軍司令官ミトは、鎖でつながれているシンの腹部に剣を突き付けた。
突き付けた剣をさしたまま、剣を何度もねじ切った。
「あああああっ」
気絶していたシンは、あまりの痛みに目を覚ました。
ミトはシンに突き刺していた剣を抜いて、ゆっくりと椅子に腰かけた。そしてテーブルに置いてあるワイングラスに口をつけた。
「それで?」
ミトは唐突にシンに質問した!
「?」
「なんのことだ?」
シンは意味が分からなかった。
「ざしゅっ」
ミトは、剣をシンの右足の太ももに突き刺した。
「うわあああああああああああああっ」
シンは痛みを堪えながらミトを睨みつける。
「モーリス様が、お前に興味があるようだ!」
ミトは悪魔モーリスに呼び出された魔人の一人であった。
「そもそも、お前は人間か?」
ミトはシンの中に人とは違う何かを見ていた!
「・・・・」
シンは何も答えない。
「まあよい!」
ミトはそういうとテントを出て行った。
「あいつが司令官か!」
シンはチャンスだと感じていた、あれだけ探していた敵司令官が目の前にいるのだ。
「チャンスはいつか必ず来る!」
シンは心の中で闘志を燃やした。
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