罠
ミトは、森や里をさまよっていた。自分自身が安心して生きていける場所を求めて。しかし、1カ月、2カ月たってもそんな場所は見つからなかった。
ミトは考えていた。自分が人間だったときは考えたこともなかったが、人間はどこにでもいる、人間は多すぎると・・・・
平野や川の近く等、ミトが住んでみたいと思う場所には必ず人間がいた。その人間達はミトの姿を見ると必ず襲ってくる。ミト自身は何もしていないのに、ただ生きるために必要最小限の食料を求めているだけなのに・・・・
ミトは思う。自らがゴブリンだから人間が嫌いなんじゃない。人間が醜い生き物だから嫌いなんだと・・・・いつの間にかミトの心の中から「山田」であったときの心が消えようとしていた。
今日もミトはいつものように人間の目を盗んで、自らの生きるための食料を取りに来ていた。何故だかわからないが、いつもの畑の横の木の枝にソーセージが糸でつるされている。
今日はラッキーだ。肉が食べられる!ミトは喜んで木の枝にかかっているソーセージを手にした。
「ばさっ」
突然、ミトの視界からソーセージが消えて大空が見えた。
「体が動かない」
「なんだ、これは!」
ミトは村人が仕掛けた網にかかった。
度重なる畑荒らしに対する対策として仕掛けた罠だった
「くそっ」
「出ないと」
ミトはもがいた、力いっぱい抗った。それでもわなから逃げだすことはできない。
「悔しい」
「ぼくが何をしたんだ」
「ご飯を食べにきただけなのに・・・・」
しばらくすると、人間が1人やってきた。ミトを発見すると、人間は驚いたような表情でいなくなった。
ミトはいつの間にか眠ってしまっていた。目が覚めると、そこには多くの人間がいた。
その中心には、いつもの村人ではない、少し大柄の髭面の男がいた。その男は槍のようなものを持っている。
「もしかして、この人間たちは僕を殺すのか」
「これじゃ、まるで獣じゃないか!」
人間であった時のかすかな記憶がよみがえる。イノシシかシカが、駆除という理由だけで、人間に殺されていた。
「ぼくも、駆除されるのか・・・・」
「ぼくは、そんなに悪いことをしたのか・・・・」
「ぼくは死ぬのか・・・・」
「いやだ・・・・」
「死にたくない・・・・」
その時ミトの中で何かが大きく変化した。
「やらなきゃ・・・・」
「先に・・・・」
「死なないために・・・・」
「生きるために・・・・」
「が、あああああああああああああああああああああああああああああああああああっ」
ミトは絶叫した!
突然のゴブリンの絶叫に村人や、村人に依頼を受けてゴブリンをとらえた冒険者の男は驚いた。ひげ面の男は、この辺りで、活動しているEランク冒険者であった。
「大丈夫だ、落ち着け!」
冒険者の男は村人たちを安心させようと平静を装った。心の中では、かなり焦っていた。ゴブリンのこんな姿を見たのは初めてだったからだ。
次の瞬間、彼らは、さらに驚愕した。
とらえたはずのゴブリンが罠を破って、自分たちの目の前に仁王立ちしていたからだ。
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