しんがり
テントを抜けだしたシン達はゴブリンの大群に追われていた。テントの騒ぎで眠っていたゴブリンたちが目を覚ましたからだ。
「シュバ、このままでは逃げられない! オレが足止めするから彼を連れて行ってくれ」
シンは聖騎士団長をシュバに託して、足を止めた。
「シン、すまん!」
シュバは躊躇なく聖騎士団長を抱えて、走りだした。ここでシンと言い合いをする時間は、全員の命取りになるとわかっていたからだ。
シュバは、ダンジョンを含め、死地をいくつも潜り抜けてきたことで、戦況を一瞬で判断することに長けていた。
このまま成長できれば、シュバは将軍として大成するだろう。
シンは走り去るシュバを一瞥すると、鉄斧を構え、迷いなく「鬼化」を選択した。
シンの額から角が延び、体が巨大化した。
シンは迫りくる大量のゴブリンを横なぎでなぎ倒した。シンの鉄斧の一振りでゴブリン数体が吹っ飛んで絶命した。
数十体のゴブリンを倒した時、ゴブリンたちはたじろぎ、ゴブリンに隙ができた。
この時を待っていたシンは鉄斧を背中に装備し、全速力で走りだした。鬼化している、シンに追いつけるゴブリンはいなかった。
「あ、やばいな」
森に入ってしばらく走ったところでシンは気を失った!
すでにゴブリンたちはシンを見失っていた。
聖騎士団長を街に送り届けた後、シュバはデン、クニ、イオを連れシンの捜索をしていた。
シンが鬼化を使った場合、どこかで倒れていることを知っていたからだ。
しかし、シン達の襲撃を受けて、街の外は警戒しているゴブリンたちで一杯だった。シュバ達はゴブリンたちの警戒網を潜り抜けて、シンの捜索を続けた。
丸1日捜索を続けて、シュバ達は一旦街に戻ることにした。
「おお、シュバ戻ったか! シンはみつかったか?」
屋敷の大広間にシュバが入るとすぐに大司祭が声をかけてきた。
「ダメでした・・・・聖騎士団長は?」
シュバは送り届けた聖騎士団長の容態を訪ねた。
「あれから、眠り続けたままだ・・・・」
聖騎士団長はゴブリン司令官ミトの不思議な能力で、かろうじて息をしているだけという状態であった。
「しばらく休んだ後、シンの捜索を再開します」
シュバは力なく大広間を後にした。
大広間に残った大司祭は苦悩していた。
聖騎士団長、聖副騎士団長が倒れ、街の最高戦力のシンも行方不明である。事態は最悪といってよい状態であった。
ゴブリン軍のテントの中で、司令官ミトの大テントにゴブリン軍の幹部が集まっていた。
「目的のものは確保した! 翌朝全軍で総攻撃だ!」
ミトはそういうと、幹部たちを解散させた。
ミトの後ろには、鎖でつながれた、シンが転がっていた。