魔王城にて
「ノブよ、今夜は飲みあかそう」
「ああ、シャリーン」
「本当は二人だけが良かったのだが、どうしてもとミノスがうるさくてな。護衛など必要ないのだが」
「僕は気にしないから」
人類を800年間苦しめてきた魔王シャリーン・ジェ・グスタフと勇者ノブは魔王城最上階のサッカー場ほどはあろうかという広い魔王の間にいた。魔王の傍らには魔王の800年来の大側近ミノスが控えていた。
ミノスは魔王と勇者の会話を邪魔することなく無言でその存在を消しているようだった。
「僕たちがこうしていることは、ミノスを除けば、人間界、魔族界のだれも知らない。だけど僕はこうなったことは後悔していない!」
「私もだノブ、この800年おおくの勇者を返り討ちにしてきたわらわじゃが、まさか人間を愛してしまうとは。わらわはこの命をそなたにささげるぞ」
「人間界と魔族の戦いはもう終わる。僕は明日、世界会議連合に伝える」
「わららは、魔王軍を解散して、魔王領を人類に返還する」
「そして僕たちは、誰もいない小さな島で二人の時間を過ごす。誰にも邪魔されずに」
「乾杯!」
その時、何かが魔王の胸を貫いた!
「ぐあっ!」
魔王は手にもったグラスから飲もうとしていた果実酒を白く大きな大テーブルに、ぶちまけて、その顔は何者かの手によりテーブルに押し付けられていた。
「ミノスー、何故だー??」
魔王の胸を剣で貫きその顔をテーブルに押しつけているのは、魔王誕生から常に魔王の傍らで支えてきた大側近ミノスである。
「何故だ?あなたが私にそんなことを言うなんて、びっくりしますよ」
「何故、裏切った!」
魔王は顔をテーブルに押し付けられながらも。ミノスを睨みつけた。
「裏切った! 裏切ったのは私ではなくあなたでしょう!」
ミノスは怒気を込めて魔王に言い放った。
その時勇者ノブはミノスに飛びかかろうと椅子から立ち上がろうとした。しかし勇者ノブは1歩も動くことができなかった。
ミノスのひとにらみで勇者の体は固まってしまい、指先一つ動かすことができなかった。
「人間!動くな!そうすれば生かしておいてやる」
ミノスはその怒りに満ちた瞳でノブを睨みつける。
「私は800年間あなたをお慕い続けていた。あなたの望みはなんでも叶えてあげたかった。そのためには、どんなことでもしてきた」
「あなたは私の気持ちを知っていたはずだ。知っていながら、私のことをいいように使ってきた。私はそれでもよかった!」
「しかし、これはなんだ! たかが人間1匹のために、私がこれまであなたのためにしてきたことを無にして、魔王までもやめようとは!」
「私に振り向かなくてもよかった。あなたの夢である魔族による世界の統一を果たし、私はあなたの傍らにいることさえできれば」
「愚ああああああああああああああああああああああああああああああああああっ」
ミノスは魔王に刺している剣を大きくねじると、魔王の体から紫の血液があふれ出た。その剣は魔王の心臓を貫いていた。