世界祭典
この世界には4つの大きな大陸と、10を超える島国がある。その中央に位置し全陸地の半分を占める最も大きなグレイトオオガ大陸の中央にカノーギ神聖帝国が位置する。
カノーギ神聖帝国の王都シャインの大宮殿の大広間に50を超える大小の国の王侯貴族、大教皇庁の枢機卿、世界経済を独占する5つの大商会の商会主が集合していた。つまりは、人間界の支配層が一堂に会していたことになる。人類歴史上はじめてのことである。
主役は800年間、人間界を脅かしていた魔王を討伐した大勇者ノブである。魔王軍が消滅し、人間界が勝利した大祝勝会と、今後の世界の在り方を決めることを目的とした世界最大の大祭典がこれから開始されようとしていた。
「カノーギ神聖帝国 皇帝カノーギ18世様 ご入場でございます」
案内役の声が高らかに大広間に響きわたる。それまで歓談していた、世界の支配者たちは、みな一様に静まり返って、皇帝を拍手で迎えた。
カノーギ神聖帝国は100万人の騎士、10万人の魔法使いを有する人間界最大の大帝国である。
魔王軍という敵対国と人類はこれまで団結して、数百年戦いを続けてきた。それでも世界の半分は魔族に奪われていた。その魔王軍も大勇者ノブの活躍により今はなく、人々の最大の関心事は魔王軍から奪取した魔王領の分配についてであった。
一言で分配といっても、以前魔王領には、弱体化したとはいえ魔物が存在し、その討伐や800年間人類が足を踏み入れてない土地の調査も必要である。
領土は欲しいが、仕事はしたくない。それぞれの国の思惑が入り乱れての会談である。
「本日は人類史上初となる全世界の王が集まる大集会である。まずは魔王軍討伐を大いに祝おうではないか」
皇帝カノーギ18世がそういうと、大広間全体が喝采の渦に包まれた。
大喝采が静まると
「この人類の勝利をもたらしたのは、われらが一丸となり戦った結果ではあるが、ここにいる大勇者ノブがいなければこの大勝利はなかった。皆様方、大勇者ノブに今一度拍手をお願いする」
大広間にこれまでにない拍手と喝さいが沸き上がった。
それと同時に大勇者ノブは、皇帝の前にでて膝まづいた。
「ありがたき幸せ!」
大勇者ノブは拍手、喝采に対してお礼を述べた。魔王を倒したことにより勇者ノブは、大勇者の称号を世界人類同盟から授けられ大勇者ノブとなった。
大勇者の身分は貴族の最上位である侯爵よりも上に位置し、王族と同等とされる。さらには、大勇者には大勇者自らだけでなく、その子孫に対しても今後100年間、毎年世界標準金貨1万枚が全世界の国が加盟する世界会議連合から贈られることになっている。日本の金銭価値にして金貨1枚が約1万円であるため1億円ということになる。
人類は魔王を倒した勇者に最大限の敬意と礼を尽くしたのである。
「大勇者ノブよ、そなたの身分は今や1国の王と同等である、どんな高貴なものに対しても膝まづく必要はない。立ち上がるがよい」
皇帝カノーギ8世が勇者に賛辞を贈るとともに自らとも上下関係がないことを人々に示した。これにより大勇者ノブは今後誰からも支配されることはないと世界に認められた。
「ありがとうございます」
大勇者は静かに立ち上がりながらも、その顔には戸惑いと不安そして自分が大勇者として崇められることに対する罪悪感がいっぱいであった。