それぞれの1日
シンにはこの世界に来て3人の母がいる。ゴブリンだったころの母、シンとしての母、そして最も短い期間ではあるがテオしての母である。
元シェイパース伯爵夫人は、屋敷を追い出されて以降、行方知れずであった。シンはもちろん探したが、何せ幼い子供のシンには見つけ出すことができなかった。
「こんなところにいるなんて・・・・」
シンにはあの高貴な元伯爵夫人であった母がこんな安酒場で働いている姿が見てられなかった。
「くそっ! オレにもっと力があれば・・・・」
シンは自分のふがいなさが許せなかった。
「くそっ! くそっ! くそっ!」
シンはテーブルをたたいて、涙を流した。
「あらあら、どうしたの? 何かつらいことがあったんだね! こんなとこだけどゆっくりしていって。 きっといつかいいこともあるわよ!」
元シェイパース伯爵夫人は、そういうとシンの注文したブドウジュースを置いてにこっと微笑んだ。
「母さん・・・・」
シンは今の境遇になっても見知らぬ客に笑顔を見せた母をみてたまらなくなった。
あんなにも自分ではできなかった母が、必死に生きている後姿を見てシンはいつか彼女を幸せにすると誓ったのであった。
そのころイオは宿屋に戻ってシュバのことを義理の母と妻に報告していた。
「一時はどうなるかと思ったけど、よかったね」
青髪ママはヤホ爺に頼んでやはり良かったと安心していた。
「ところで、あんた取り分もらったんでしょうね」
赤髪妻がイオの懐をあさった。
「ちょ、ちょっとやめてくれよー」
イオはシンにもらった取り分をすべて没収されてしまった。
「ま、こんなもんかね」
赤髪妻は納得したようだ。
「さあ、あんた! しばらくダンジョンにいかないなら気合入れて客引きしてきな!」
イオは赤髪妻にお尻を蹴られて、宿屋を出て行った!
デンとクニはギルドの求人掲示板の前にいた。
「そういえばオラたちも求人だしたけど、一向に連絡がないだべな!」
デンは補助者の求人情報を眺めながら、以前出した回復薬の募集のことを思い出していた。
「そうだな、やっぱり回復薬っていうのは人気職だから、駆け出しのおれたちのところには、なかなか来てくれないのかな」
クニが入口においてあった試供品のクッキーを食べながら答えた。
「まあ、それもあるだろうが、やっぱり報酬が安いからだなや、はははは!」
デンはなんだか楽しそうだ。
「ちがいねぇ! はははは」
クニも笑っている。
「カエルだか!」
デンは数ある補助者の募集を前に応募しないようだ。
「ああ、そうだな!はははは」
2人はギルドを出て、馬車の整備に向かった。