出発
「日も登ったし、そうと決まれば出発するか」
老人はそういうと立ち上がってはみたが、憂鬱だった。おそらくここからあの山小屋まで普通に歩いても1カ月以上はかかるはずだ!まして、われらは人間たちの目から隠れて、人里を避けながら進むしかない!
それに、旅のお供がこの弱そうなゴブリンというのもちと不安だ。
とりあえずは、こいつの見た目だな、老人は自らが来ているフードをゴブリンに手渡した。
「それを着ろ、万一人に見られたらやっかいだからな」
「ワシのことはシュバインなり、シュバちゃんなり好きに呼ぶがいい」
「では、シュバちゃんで」
「えっ」
老人は冗談で言ったつもりが、シュバちゃんと普通に呼ばれたので、大いに驚いた!魔王軍の大幹部である自分に対して、これまでならゴブリンごときは、話をすることさえ許されなかった。シュバイン様と、名前で呼ぶことさえ許さなかったほどだ。
シュバちゃんと呼んでいたのは、唯一魔王その人だけだった。
「まあよい、魔王軍もすでにないのだからな」
マルオは何が「まあよい」なのかわからなかったが、特に気にはしなかった。
「私の名はマルオです。まるちゃんとお呼びください」
「!!????」
老人はさらに衝撃を受けた!
ただのゴブリンに名があるのかゴブリンで名持ちといえば、ゴブリンキングのさらに上、伝説のゴブリンエンペラーくらいしか考えられないからだ。まして、ゴブリンエンペラーなど伝説のおとぎ話に出てくるくらいで、実物など見たことも聞いたこともない。
「そなたはまるおというのか!」
老人が恐る恐る確認すると
「はい! まるちゃんでお願いします」
マルオは笑顔で応えた!
「まるちゃん」
老人は戸惑いながらも、「まるちゃん」と呼んでしまった!
「こほん! ではいくぞ、まるちゃん!」
長い夜を過ごした二人はゆったりと歩き出した。
「時にシュバちゃん、腹が減りました!」
マルオは老人に屈託ない笑顔で話した。
「腹が減った!? そうかでは何か食べるものを探すとするか」
老人はこれからの数ケ月に及ぶであろう二人旅のことを考えて、連れていくといあったことを深く後悔したのであった。