この中に1人男の娘がいる! いや、まぁ僕なんだけどね9
「僕は赤目薫と言います。凡人の身ながらこの偉大なるボクっ娘が集うオーディションに参加することができて感激の極みであります。ボクっ娘っていいですよね。常日頃からそれを感じています。僕も毎朝ボクっ娘の神(嫁)を祀った神棚にお祈りを捧げてますよ。ぜひ、仲良くしてくださいね」
「……し、審査書類からもわかってはいたのですが、大変個性的な方ですわ」
ん? 個性的? ごくごく普通で当たり前のことしか言ってないんだけどな。
しかも、みんな引き気味だぜ。
なぜだ。普遍性の塊である僕がどうして引かれなくちゃいけない。
「次の方、自己紹介お願いいたしますわ」
次は、おっぱい星人ことレイラちゃんだ。
「レイラ・シャワポワですます! おっぱいしゅき!」
はじけるような笑顔と一緒に繰り出されるとんでもない自己紹介。この子、時と場を選ぶという精神を知らないみたいだね。
「もませてくれる人ぼしゅ?」
いるわけないんだよなぁ! その立派な自分のでも揉んでなよ。
「元気でけっこうですわ。元気系ボクっ娘は、元祖にして王道です」
おっぱいおっぱい言うボクっ娘は、見たことないけどね。如月さんも無理やり褒めるところをひねり出している様子だった。
レイラちゃんの対面の席に自己紹介の順が回る。そこには、人はいなかった。座布団の上にノートパソコンが置かれており、そのディスプレイには二次元の女の子が描き出されている。現実には存在しえない猫耳が生えた女の子だ。着ている服は、存在の非現実さを埋め合わせるかのような現実にありそうな学校の制服だ。
「はじめましてにゃー。ぼくにゃんは、岸花。岸が苗字で花が名前で、苗字じゃないにゃー」
ずっと岸花が苗字だと思ってたぜ。次から岸さんって呼ばないとなぁ。
「ずいぶん濃いみなさんの中で生き残れるかはわからないけど、よろしくにゃん」
にゃんの声と一緒に猫の形をしたエフェクトがディスプレイの背景ではじける。うん、この辺の演出はバーチャルアイドルならではかな。あと、君も一般人基準で言えば大概濃いけどね。
さらに次の人へ自己紹介は移る。今度の人は、まだ名前も知らない。
「淑女のみなさん、ごきげんよう。ボクさんは天津川白。劇に生きて劇に死ぬ。この世界のデウスエクスマキナになることこそ、ボクさんの夢さ。以後、お見知りおきを」
天津川さんは、一言で言えばイケメンだ。きりっとした目元と高い鼻、引き締まった唇。タキシードを着ているのだけど、古い時代のヨーロッパの貴族のようにそれはよく似合っていた。僕が女だったらひとめぼれも十分にあり得ただろう。
「な、ななな! 貴様、僕様への挑戦をしているのか?」
天津川さんの自己紹介になぜか噛みついたのは、最後のボクっ娘であるフードを被った少女だった。
「清らかな少女よ、どうしたのかね?」
「僕様こそがデウスエクスマキナ! この世の混沌の中に生まれた機械仕掛けの神なのだよ!」
自称デウスエクスマキナちゃんが被るフードの下からは銀髪と紅の瞳が見て取れる。両方とも天然ではなく、人工的な手段による変色だ。新年度のクラスで行われる自己紹介は、三人目で飽きるけど、ここは最後までおいしいト○ポみたいだなぁ。
「佐々木花子さん、他の方の自己紹介中に割り込むのはあまり感心致しませんわ」
「その名で僕様を呼ぶな! デウスエクスマキナだと言っておるだろう!」
機械仕掛けの神こと佐々木花子ちゃんは顔を真っ赤にして叫ぶ。自称する名前と比べて、ずいぶん平凡かつ古めかしい本名だ。
「自己紹介はこれで全員終わりましたわね」
「僕様がまだ終わっておらぬ! 人の自己紹介を中途半端で切ろうとするのも、罪深い行為であろう!」
「わかりました。わかりましたよ」
それから十分間、延々と自分のキャラクター設定をデウスエクスマキナちゃんは語っていった。うん、自己紹介は最後まで飽きないと思ったけど、これは一分で眠くなったよ。
最後はぐだっちゃったけど、自己紹介が終わっていよいよお楽しみの夜ご飯だ。小さな窯に入った炊き込みご飯、具材がふんだんに入ったお味噌汁、一口サイズにカットされた鉄板上のステーキ、鯛のおさしみ……ボリューム、質ともに十分な品々で、どれも一級品のおいしさだ。
わいわいと、ボクっ娘達は近くの人と話し始めた。僕もレイラちゃんにおっぱいを揉ませろと絡まれたが、それをいなした。すると諦めたのか、おっぱい星人は誰とも話さずもくもくとご飯を食べていた八幡宮さんに絡みにいった。攻撃的な自己紹介を聞いてなお触れ合おうとするなんて勇気あるなぁ。