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この中に1人男の娘がいる! いや、まぁ僕なんだけどね55

「らしくないぜ」

「あんた、意外と酷いこと言うわね」

「純粋な感想だよ」

「はぁ、あれだけとげとげしく接したのに、誰も僕ちゃんを嫌いになる様子を見せないのも、逆につらいわね

「ツンツンしてたのは、わざとだったんだ」

「……別に。素よ。どこかの誰かは、僕ちゃんのことを嫌いなはずなのに、犯人に成り代わるなんて言い出すし。いくらボクっ娘が好きと言っても、さすがに人が良すぎよ」

「いやぁ、褒められると照れるぜ」

「あんたの場合は、どっちかと言えば、変態要素の方が強いかもしれないけれどね」

 微妙にツンデレ要素を入れてくるのは、意図的なのだろうか。

「ま、赤目が計画を邪魔したせいで、僕ちゃんの妹が高校に行けなくなるかもしれないけどさー」

「うっ」

 ずいぶん嫌な部分を突いてくるぜ。

 そこは、僕があえて見ないふりをしていた部分だ。八幡宮さんには悪事を犯す理由があり、理由があるからと言って許される行いではないけれど、同情の余地はある。

 けれど、僕には八幡宮さんに同情する権利なんて欠片もない。

 八幡宮さんのプランを壊した張本人なのだから、心を痛めるなんてお門違いだ。

「それは、嫌味かな?」

「もちろん、嫌味だわ」

「やっぱり、八幡宮さんはやな人だぜ」

「嫌い?」

「嫌いにはならないぜ」

「でしょうね」と、笑う八幡宮さんはきっと意図的に嫌な人を振る舞っている。

「もしかして、八幡宮さんは僕が嫌い?」

「当り前じゃない。僕ちゃんの計画をぶっ壊した人間よ」

「ですよねー」

 でも、嫌いな人間に良心の呵責なんて覚えるかな?

「あんたは、たぶん僕ちゃんの金銭事情を気にしてるわよね。なにしろ、盗聴してたんだから」

「聞いたのはあくまで岸さんだから!」

「あら、大好きなボクっ娘に責任転嫁するのかしら?」

「前言撤回するぜ。すべて僕が悪い。僕が盗聴犯だ」

「なにまた罪被りしてんのよ。バカみたい」

 責任を転嫁することも被ることもできないのなら、僕にどうしろって言うんだ。

 あはは、と八幡宮さんが声を上げる。クールな彼女が声を上げて笑うのはレアケースだ。少なくとも僕は初めて見た。

「あんたにもやもやを残したまま別れるほど僕ちゃんは鬼じゃないから言っといてあげるわ。僕ちゃんには天から送られた魅力があるし、それに甘んじることなく努力もしてる。今回は血迷ったけれど、本当はその必要はなかったのよ。別のアイドルオーディションを受けたら、きっと受かるに違いないわ。そして、トップアイドルに一直線よ。そうなればお金もガンガン稼げるわけ。だから、何の問題もないわ」

 どこまで本気で、どこからが気遣いなのかわかり辛い。そして、どこからその無限大の自信は湧いてくるんだろうか。

 いや、きっと八幡宮さんは最初から最後まで本気で言っている。彼女からあふれ出る気力がそれを証明している。それに、実際に魅力と才能はある。

「世界一汚れたアイドルが生まれそうだぜ」

「酷い言われようね。けど、あんたをファン第一号にしてあげなくもないわよ?」

「僕のファン第一号を捧げる心に決めた人がいるから、辞退しておくぜ」

「あら、残念ね」

「普通のファンとして応援するぜ」

「汚れたアイドルを応援してくれるのかしら?」

「ダーティーさが、如月さんの魅力だと僕は思ってるからね」

「世界一嬉しくない褒め文句だわ。けど、ま、犯人仲間だからそのくらいの評価が心地いいかしらね」

「犯人仲間って。それこそ世界一嬉しくない仲間意識だぜ」

「そうね」と、言って八幡宮さんはまたくっくっと笑う。黒幕として立ちまわっていた彼女は、必要以上に人となれ合うのを、そして笑うのを避けていたのだろう。その楔が解けたから、きっと普通に笑えているのだ。

「けど、これからはお金のためだけじゃなくて、あんたが初めに言ってたような夢を追いかけるスタンスでやってみようかしら。なーんて、僕ちゃんには似合わないわね」

「似合わないけど、いいと思うぜ」

「あら、そう」

 三度目の笑い声。

 八幡宮さんは、大丈夫そうだ。僕の胸のつっかえが一つとれたぜ。

「ほら、まだ宴会は続いてるんでしょ。行ってきなさい。最後の夜なんだから、思いっきり楽しんでおかないと損よ。

あぁ、僕ちゃんに対する遠慮なんていらないわよ」

 僕は彼女に言われたとおりに、宴会に戻ってボクっ娘達との最後の夜を楽しんだ。

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