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この中に1人男の娘がいる! いや、まぁ僕なんだけどね54

「?」と、僕は首を傾げてしまう。

「不思議ですよ」

 如月さんの異変の原因に初めに気づいたのは彼方ちゃんだった。

「如月はんは、どんな形であろうが絶対に男の人と話すことができなかったのですよ。けど、赤目はんとは話せているのですよ」

「それって僕が男らしくないってこと?」

「今の赤目はんのどこを見て男らしいと思えばいいのですよ?」

 然り。

「如月はん、これはたぶんいい機会ですよ」

「いい機会とは、どういう意味ですか?」

「男性恐怖症を克服する第一歩として、赤目はんと定期的にお話しするのですよ。このお方はどうしようもなく変態であるのは間違いないのですよ。ですが、悪い人間ではないのは証明されてるですよ」

「男と関りを持つ必要なんて金輪際ないですわ」

「如月はんが辛い過去をお持ちなのは、私も痛いほど知ってるのですよ。ですが、だからこそ男の子を――人類の半分を嫌いなままでいるのはもったいないのですよ。人生の半分を無駄にしているのと同義なのですよ」

「……」

「男の中にはどうしようもないケダモノもいるのですよ。けど、いい人だってたくさんいるのですよ。如月はんはそれを思い出すべきですよ」

 見た目は小学生のそれだけど、彼方ちゃんは三十路を歩みだした年長もので、その言葉には重みがある。

「いまだに夫を見つけられていない彼方にそれを言われる筋合いはありませんわ」

「そ、それは私のこの体形故なのですよ! 論点をずらさないでほしいのですよ!」

 かなり辛辣な返しだったが、悪戯をする子供みたいに如月さんは微笑んでいた。

「すみません。今はまだ心の整理ができないので、少し考えさせてくださいませ。今の状態だとぼくたんはきっと赤目様にきつく当たってしまいますので」

「仕方のない小娘なのですよ。チャンスはすぐに逃げてしまうですよ」

「彼方に小娘と言われたらおしまいですわ」

 どうやら二人は本当に仲がいいみたいだぜ。

「赤目様」

「なにかな?」

「いえ、呼んでみただけですわ。本当に――本当に抵抗がないですね。それどころか、ボクっ娘と話しているかのような幸福感すらありますわ……悔しいことに」

「それは光栄だぜ」

 如月さんとも雑談をしてからひときわ豪華な夜ご飯を頂いた僕は、どんちゃん騒ぎの波が引かない宴会場を一足先に後にして、八幡宮さんと話すために彼女の部屋に向かった。

 固く閉ざされたドアをノックしても返事はない。

「八幡宮さん?」と、声をかけると「なによ。あんただったのね」と返ってきた。どうやら、居留守を使ってたみたいだね。

「入りなさい。どうせ、もやもやが解消できなくてここに来たんでしょ」

 八幡宮さんに招き入れられるままに僕は部屋に入った。座布団の上であぐらを組む彼女のまぶたは、よくよく見れば腫れている。

「別に泣いてないわよ。泣く権利なんて僕ちゃんにはないんだから」

「わかってるぜ」

 ボクっ娘には、もしかして墓穴を掘る子が多いんだろうか。

 用いた手段の善悪は置いておいて、彼女も本気でアイドルを目指していたのだ。それは、きっと妹のためだけでなく、自分の夢のために。どこかで、誤った。致命的に道を誤ってしまった。それは擁護できないし、きっと擁護するべきではない。

「聞きたいのは、どうして自白したのか? ってところかしら」

「まさにそれだぜ」

「もっとも単純でくだらない理由よ。良心の呵責ってやつよ。どいつもこいつも嫌になるくらいいいやつばっかりじゃない。理由は何であれ、正々堂々アイドルを目指してる」

 八幡宮さんの瞳が遠くを見る。

「特に桜島ね。あいつのダンス、僕ちゃんも見ていたけれど、致命的に下手だったわね。けど、頑張ってた。誰よりも頑張ってた。それを見た時、僕ちゃんは思ったわ。真っ向勝負している。僕ちゃんはその真逆の道を行ってるけど、そんなやつが好き。憧れてるのかしらね。とにかく、同じ舞台に僕ちゃんが立つのは間違っているし、あんたが犠牲になるのもおかしい。そう思っただけよ」

 八幡宮さんが自白をしたのも、僕が監禁部屋から出られたのも、桜島さんのおかげだったのか。

 僕は八幡宮さんの代わりに犯人でいることを許容していたけれど、もしかしたら彼女が罪を自白する形がベストだったのかもしれない。これからの、八幡宮さんの人生においては。

 ここで僕が罪を被ったとしても、後ろめたさは残る。なかなか前を向けない。

 もし、そうなのだとしたら、桜島さんは僕にできなかったことをやって八幡宮さんの人生を変えたと言っても過言ではない。

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