この中に1人男の娘がいる! いや、まぁ僕なんだけどね51
「僕は、オーディションに参加したボクっ娘――八幡宮さんも含めて全員が大好きだ。でも、その中で、僕は桜島さんを応援したい」
桜島さんの大きく見開かれた瞳が僕を映し出している。きっと、僕の瞳もこの子を鏡写しにしている。
「僕は、君にアイドルになって欲しい。だから、一言だけ言わせて」
我ながら似合わないけれど、ピースサインを作る。
「桜島さん、夢を掴んで」
自分に自信を持てない少女は、僕の言葉を慎重に咀嚼しているようだった。人に期待されるのは嫌だ、重たいとこの子は言っていた。彼女にとって僕の応援は、エベレストに臨む登山家が背負う荷物のように重たいだろう。
言う側は楽だ。期待を吹っ掛ける側は楽だ。わかってる。それでも、僕は伝えておきたかった。
「はじめて、かも」
桜島さんは小さくつぶやいた。
「人からの期待、今まで嫌だった。でも、ボク、赤目くんの言葉、嬉しい」
その瞳を燭台に、決意の炎が灯る。いつも弱々しい印象が表に出がちな桜島さんだけど、力強く頷いた。そして、ピースサインを作ってにっこりと笑った。その笑顔は人を魅了するアイドルとして百点満点だ。この子は、こんな笑顔ができたのか。
あぁ、この子のファン一号になれたら、幸せだろうな。
「よし、じゃあ、行ってくるぜ」
「赤目くん、このオーディションが終わっても、ボクとともだち……うん、友達でいてくれるかな」
「僕の方こそお願いしたいぜ」
「うん!」
犯人は別れの挨拶を終えた。
いよいよ自首の時間だ。だけれど、妙に清々しい。
おでこ靴を履きなおした僕は、その足で如月さんの憩いの間へと向かった。面接で使われたあの一部屋だ。どうやら、ここは彼女のお気に入りの場所らしい。外が吹雪でなく、静かに舞い散る粉雪だったのなら、窓辺に頬杖をついてえんえんとその景色を眺めていられそうだし、それも納得できる。
「赤目様、どうなさいましたか?」
窓辺に置かれた机の上で作業をしていた如月さんは、手を止めて僕に微笑みかける。うっとりと見とれてしまいそうだ。
「如月さん、僕は君に伝えないといけない」
「なんでしょうか?」
「僕が――このオーディションに紛れ込んだ男の娘だ」




