この中に1人男の娘がいる! いや、まぁ僕なんだけどね44
「中に暴漢がいたらどうしよう……」
「たぶん、大丈夫だぜ」
すでに中にいる人物には当たりが付いていた。
開かずの間、開錠。
カギを回してガチャンとなった瞬間、中からに゛ゃ!? と、びびりが入った驚きの声がする。そして、どったんばったんと騒々しい音がする。ずいぶんな慌てようだぜ。
「ひぃいい、なんかいるよ」
桜島さんも正体不明の音にびびりまくりだが、僕はその存在の正体に確信が持てたので、まったく動じなかった。
おでこ靴を脱いで、居間へと続く襖を開ける。
「これは、酷いな」
テーブルの上を埋め尽くすカップ麺の空とお菓子のごみ袋の数々。その中で、デスクトップパソコンが一台置かれており、それと接続されたディスプレイが光を放っていた。パソコンを使うときの座布団替わりに使われているのか、しわだらけの布団がテーブルのそばに置かれている。この部屋の主の持ち物であろう猫の抱き枕も一緒に転がっていた。
この部屋のアイテムで、なにより取り上げるべきは、モーションキャプチャーツールだ。うん、完璧に正体割れたぜ。
「ぼくにゃんはおいしくないにゃぼくにゃんはおいしくないにゃぼくにゃんはおいしくないにゃ……」
部屋の押し入れから壊れたレコーダーから流れてくるような繰り返しの言葉が聞こえてくる。
「え? 岸さん?」
間の抜けた様子の桜島さん。
うん。猫、人とくれば岸さんしかいないだろうね。
岸さんがいつも映っているノートパソコンは、有線で繋がれておらず、無線通信をしていたわけだけど、ここは電波は届かない山奥だ。どこかに有線で繋いだPCを用意して、そこから無線を飛ばす方法で配信をしていたと考えるのが妥当だろう。その現場がこの部屋だ。テーブルの上にあるパソコンはしっかりLANが繋がっている。
「僕達は岸さんを襲いに来たわけじゃないぜ」
「ど、どうひゃって入ってきたにゃ」
「マスターキーを使ってだよ。ちょっとお話ししようぜ」
「マスターキー!? どうやって手に入れたにゃ。い、いやにゃ、話したくないにゃ。助けて奈々お姉にゃん」
「奈々――? それは如月さんのことか」
「ッ」
ディスプレイに映る猫娘のアバターが<しまった>と顔をしかめる様子が僕の頭に浮かんだ。
「姉妹だったんだ、君たち」
「……」
如月さんの妹か――ネット上で使っていた岸花は、ハンドルネームだね。
如月さんのように素敵な姿見をしてるのか、耳に柔らかい名前なのか、気になって仕方ないぜ。小さい頃の如月さんの生き写しだったりするのなら、ぜひ見てみたい。無理やりにでも襖を開けたい気持ちをぐっとこらえる。
岸さんが如月さんの妹だというのも、ある程度納得できる根拠はある。まず、二月壮の二階を貸切り、配信のための機材を用意するこの待遇。主催者の如月さんの<必要以上>の全面協力がなければ、実現できないだろう。そして、如月さん自ら岸さんのノートパソコンを運ぶ場面もあった。直接言葉を交わす場面こそ少なかったけれど、如月さんは、岸さんに対して明らかに<甘い>。その甘さが審査結果に影響することはないだろうけどね。
「ちなみに、本名は聞いてもいいかな?」
「オーディション会場では、岸花として扱って欲しいから教えないにゃ」
「そっか……」
残念だけれど、本人が望むならば仕方がない。このまま岸さんと呼ぼう。
「けど、どうしよう桜島さん。自称如月さんの妹でも、女の子なのを確認しとくべきだよなぁ」
「揉むの?」
「うん」
「揉むの?」
「うん」
「だれが?」
「僕でもいいぜ」
「……どうせボクが揉むパターンだよね! わかってるよ!」
「揉むとか揉まないとかなんの話をしてるにゃ!?」
「遠回しに言うと胸につくお肉、端的に言うとおっぱい」
「にゃー!? やっぱりぼくにゃんを襲いにきたにゃ!?」
「誤解だぜ。むしろ救いに来たと言ってもいい」
「岸さんからすれば、その感想は間違ってないと思うんだけど……。如月さんに聞けばよくないかな?」
桜島さんからのごくごく当たり前の指摘。




