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この中に1人男の娘がいる! いや、まぁ僕なんだけどね42

 桜島さんが「赤目くんの部屋に行ってみたい」というので、いつも招待されてばかりだったから快く承諾した。僕も桜島さんも、話して状況を整理したいって思いで一致してるんだろうね。

「座布団でも布団でも好きに使っていいぜ。ごめんけど、僕はちょっとお花摘みに行ってくるよ」

 おぉ、自然と出たお花摘みに行ってくるは女子力高いんじゃない? やはり僕は女の子としての才能があ……いや、あっても全然うれしくない。

 僕はトイレの個室で苦労しながらトイレを済ませる。小の方なんだけど、五分はかかってしまうぜ。化粧や立ち振る舞いは日々上達しているけれど、トイレはどうしても慣れないぜ。ゴスロリ衣装は苦労するなぁ。

「お待たせ―。ん?」

 居間に戻ると、桜島さんが部屋の隅でもぞもぞとうごめいていた。

「……って、なにやってるの」

 桜島さんは、僕が一日目に来ていたゴスロリ衣装をハンガーにかけていたのだけど、それを抱き着くように持って顔に押し当てている。

 すんすんすんすんすん。

 尋常じゃない勢いでにおいを嗅いでいる。めちゃくちゃ集中しているようで、僕が戻って来たのにまるで気づいていない。

「いいにおいいいにおい――。濃い。濃いよぉ」

 ゴスロリ衣装に顔を突っ込んだまま、突き出したお尻を犬のしっぽのようにふりふりしながら、独り言全開の桜島さん。

 変態だ。変態がいるぜ。

「桜島さん? ……おーい、桜島さん!」

 軽く大声を出さないと、まるで効果がなかった。

「はっ!? 赤目くん!? こ、これは違うんだよ! 赤目くんの服が落ちちゃったから、戻そうとしただけで」

「うんうん。わかってるぜ。ありがとねー」

「ぜーっっったい誤解してるよね!」

「におい嗅ぎ魔だなんて思ってないぜ」

「思ってる人の言葉だよ! そもそも赤目くんがいけないんだよ! こんないやらしいにおいをして! 嗅ぎたくなるのもしかたないんだよ!」

 とんでもない開き直りに加えて、逆切れされたよ。いやらしいにおいって、僕の人生において一度も言われたことがないぜ。僕ってそんな変なにおいするのかなぁ。だとしたら、日頃から香水とか使った方がいいかな。

 なにも言わずに、呆れた表情を作っていると「ぐぅうう……勝手ににおい嗅いでごめんなさい」と、謝られた。

 無言のまま桜島さんはゴスロリ衣装をハンガーで壁のとっかかりに吊るす。

「座布団どうぞ」

「あ、はい」

 僕が差し出した座布団におずおずと座る桜島さん。落ち着かない様子で、いわゆる女の子座りをする足を何度も何度も組み替える。両手も太ももの上で落ち着きなくもみもみもみもみしている。

 このまま沈黙を貫いて、桜島さんをじらすのも楽しいけれど、普通に話してあげよう。

「桜島さんって匂いにこだわりあるよね」

「べ、べべ別にないよ!」

「なぜそこで嘘をつくの」

「うぅ……あります」

 ぷるぷると握りしめた手を震わせながら、桜島さんは恥ずかしさに耐えていた。話題を変えてあげようか。

「全員、女の子でよかったぜ」

 僕が新しい話題を出したことでほっとした様子だったけれど、すぐに思案顔になった。

「あ、あの……」

「ん? どしたの?」

「ぼ、ボクは確認しなくていいの?」

「それは問題ないぜ。もう確認済み」

「えっ、それって、えっ? どういうこと!? 赤目くん、もしかしてボクの――!」

 しまった。完全に失言だぜ。桜島さんが雪で滑ってこけた時に、支えた僕の腕には控えめだけど柔らかいあれが当たってた。確認済みじゃなくて、もう少し上手い言い回しがあっただろうに。口を滑らせてしまったなら、もう正直に言うしかないか。

「ほら、桜島さんがこけた時に当たってたんだぜ。べ、別に意図的に触ったとかじゃなくてさ」

「うぅうぅう~~~~!」

 顔を真っ赤にした桜島さんが上目遣いで僕をにらめつけてくる。

「赤目くんが女の子だったら恥ずかしさが三分の一くらいになってたのに」

「返す言葉もございません。男ですみません。はい」

 人生で初めて男であることを謝らされた僕だった。

「責任、取ってよ」

「僕にできることならば、なんでもさせていただきます」

「な、なら! ボクと――」

 桜島さんはもごもごと口の中で言葉を飴のように転がしている。

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