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この中に1人男の娘がいる! いや、まぁ僕なんだけどね39

「赤目だぜ」「桜島だよ」「レイラですます!」と、三人一緒に返事をする。これで、少なくとも男の娘が襲撃に来たという警戒は解けるはずだ。

「な、なんだ貴様らか!」

 ガチャリと扉が開く。そこには安心しきった佐々木ちゃん。きっと人間不信状態に陥って一人布団を被ってガタガタ震えていたに違いない。

「今だ、レイラちゃん」

「りょーかいですます!」

 機械仕掛けの神は油断していたのだろう。レイラちゃんの伸びた両手が、獲物を見つけた蛇のように伸びて、見た目ほぼほぼないその胸を鷲掴みにする。

「んぴゃあああああああああああああああああああ!?」と、おっぱい星人の被害者の絶叫。

「せいちょうのとちゅうの、よきおっぱいですます」

「女の子のおっぱい?」

「当然ですます!」

 おっぱいソムリエの言葉を信じるならば、佐々木ちゃんは女の子だ。

「佐々木嬢、何事だね?」

 佐々木ちゃんの悲鳴を聞きつけて隣の部屋にいた天津川さんが出てきた。その右手には武器代わりにステッキが握られている。登場のタイミングと言い、その面構えと言い、まるで白馬の騎士様みたいだぜ。

「む、これは、どういう状況かね? レイラ嬢が佐々木嬢を無理やり襲っているようにしか見えないが、説明を欲するよ、赤目嬢」

「おっぱいお触りツアーをしていただけだぜ。特に深い意味はない」

「天津川、僕様を助けてくれ!」

「ふむ、ならば、ボクさんも混じりたいのだが、いいだろうか?」

「天津川ぇ!」

 最後の頼み綱を失った佐々木ちゃんが再び絶叫する。

「よし、じゃあレイラちゃん、次行くぜ。天津川さんへGOだ」

「あいあいさー!」

 おっぱいに貪欲なレイラちゃんが、僕の指示で天津川さんに矛先を変える。他に男の娘がいるとするなら、ボーイッシュな天津川さんはその第一候補にあがる。

「うはぉん!」と、妙な声をあげながらも、レイラちゃんの胸揉みに対して一切の抵抗をしない天津川さん。

「むむっ!」

「どうしたの? レイラちゃん」

「おっぱい、おさえこまれてるですます!」

「おっほ、申し訳ないね、レイラ嬢。あっはぁ、さらしを巻いてできるだけ胸の起伏をなくすようにしているのだよ。ぃへぁん、これでも、男装にこだわりをもっているからね」

 さっきの白馬の王子様のような雰囲気とは一転、そこにいるのはただの一人のマゾヒストだ。

「けど、実はりっぱなものをおもちな予感――! Dはあるですます!」

「さすがはレイラ嬢。大正解だぁはん」

 レイラちゃんは、抑え込まれたおっぱいのサイズすら当てて見せるのか。

 女の子に化けて入るならわざわざ男っぽく見せることはしないか。レイラちゃんの胸揉みも拒否しなかったし、天津川さんも白でいいだろう。

 これで、佐々木ちゃんと天津川さんが男の娘である可能性は消えた。

「よし、次に行こうぜ」

「む、もうおしまいかねぇえん」

「全員のおっぱいを揉んでくるツアーだからさ」 

「なるほど、ならば仕方ないな」

「なに納得してるのだ……ここにいるのはバカばかりなのか?」と、涙目になっている佐々木ちゃんはこの中ではきっと一番常識がある人なのだ。

「変態しかいないんだよ。驚かせてごめんね、佐々木さん」と、桜島さんがぎゅっと佐々木ちゃんを抱きしめる。

「さ、佐々木ではない。デウスエクスマキナだ」

 桜島さんの腕の中でもがきつつも、常識のある人がいたことに安心した様子の佐々木ちゃんだった。

「ま、桜島さんも僕達と比べてそん色ない変態だけど」

「あ、か、め、さ、ん?」

「さーせん」

 ほほにえくぼができるにっこりとした桜島さんの天使の笑みが怖い。

 残るは、八幡宮さん、岸さん、彼方ちゃんだ。岸さんは電脳空間の存在なので、もちろん除外。残りは二人だ。主催者の如月さんは、さすがに調べる必要はないだろう。もし、彼女が実は男の娘でしたーなんて事実があったら、僕はショック死してしまう。

 彼方ちゃんは木刀を振り回しそうだし、最後にじっくり料理しよう。

 消去法で残った八幡宮さんの元に向かうと、ジャージ姿で僕達を迎えてくれた。その額には汗が浮かんでいる。どうやら、日課のトレーニングをこなしていたらしい。

「なによ?」

 疑わし気な目を僕達三人に容赦なく注いでくる八幡宮さん。

「おっぱうばぶっ!?」

 先手必勝と言わんばかりに跳びかかったレイラちゃんに、八幡宮さんの見事なボディブローが突き刺さる。女の子が出してはいけない声がおっぱい星人の口から洩れた。

「お、おっぱ……」と、膝から崩れ落ちるレイラちゃん。

「ひっ」と、桜島さんが悲鳴を漏らす。

 あまりにも、あまりにも華麗な変質者撃退の瞬間を見てしまった。生半可な覚悟でこの人を襲おうものなら、返り討ちにされてしまうだろう。不審者に対して強気に出る八幡宮さんの自信の源を見たぜ。

「あら、ごめんなさい。反射的に手が出ちゃったわ。大丈夫かしら? たぶん、子供を産めなくなるような体にはなってないはずだけど」

「そこは確信を持って否定してほしいところだぜ! レイラちゃん、大丈夫?」

「おっぱいにしぬなら本望ですます……」

「まだ死んだらダメだぜ!?」

「すれ違いざまに、もんだですます……Cカップ」

 さすがおっぱい仕事人――! 仕事はこなしていたのか! よし、これで八幡宮さんの性別は確定した。

「お、お邪魔したぜ」

「は?」と、ごみをみるような目つきの八幡宮さんを前から、動けないレイラちゃんを半ば引きずる形で桜島さんの部屋まで撤退した。

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