この中に1人男の娘がいる! いや、まぁ僕なんだけどね37
「この状況もおかしいけど、如月さんもおかしいよ」
僕の目の前で口をとがらせて不満を吐くのは、桜島さんだった。秘密の話をするときは、桜島さんの部屋でするのが暗黙のルールになっていた。今日はテーブルをはさんでお互い向かい合って座っている。
桜島さんは初日みた丈の長いニットシャツを着ている。二月壮にはコインランドリーがあるので、きっとそこで洗濯をしたんだろう。
意外にも、彼女には不安は見て取れない。部屋の外にいるときは、おどおどしていたけれど、部屋に入ってからは如月さんを批判するだけの余裕を取り戻したみたいだった。
鬱憤を飲み込むためになのか、僕が急須で注いだお茶を桜島さんは勢いよく一口飲む。
「あ」
「むぅううう!?!?」と、両手で口を押さえてばたばたともだえる桜島さん。
「淹れたてだから、熱いに決まってるぜ」
苦笑いしながら水飲み場からデフォルトで出てくる凍り付くような冷水をコップに入れて渡す。
「あひがひょ」
むぐむぐとハムスターのように頬を膨らませて、水を口に含み火傷を冷ましている。お行儀はあまりよろしくないけれど、ほっぺを膨らますその姿は愛らしい。
ごくりと水を飲み干すと、桜島さんは真面目な顔つきで言った。
「けど、どうしよう。このままだとオーディションに参加する人がいなくなっちゃうよ。正直、ボクも気味が悪くて参加したくないよ」
「僕が男の娘ってわかってる桜島さんでも、そう思うなら、他の子はもっと不安だろうぜ」
「うん。きっとそうだよ」
「匿名の手紙、コンドーム、それに脅迫の手紙。たぶん、全部同じ人が仕組んだことだぜ。その犯人を――昼のパフォーマンスの披露が始まる前に見つけるないと」
「手掛かりはあるの?」
「いや、ない。なさすぎるぜ。これから探すんだ。まったく、幽霊を捕まえるような話だよ」
「役に立たないだろうけどさ、ボクも手伝う」
「ありがたい。とても、ありがたいぜ」
役に立たないなんてとんでもない。一緒にいてくれるだけでとっても心強いぜ。僕を男の娘と知ってなお一緒にいてくれる。それだけでどれだけ救われるか。
「まず、僕以外に男の娘がいる可能性を潰したいぜ」
「方法はあるの?」
「簡単だぜ。レイラちゃんに他の子全員のおっぱいを揉ませる」
如月さんが禁じていた手段。体に直接触れて性別を確かめる。如月さんがそれをダメだという気持ちも理解できるけれど、これが一番手っ取り早くて確実だ。
我ながら名案だと思ったのだけど、桜島さんの視線に一気に湿気が満ちた。
「赤目くんって、もしかして変態的思想の持ち主?」
「ち、違うぜ」
「……ボクっ娘のオーディションに女装して紛れ込むくらい変態だもんね」
「ぐっ」
そこを突かれると、僕は全ての返し手を失う。
「僕は、変態行為だと自覚しながらも自己を律して変態行為を行っている。故に紙一重で変態ではない」
「ちょっとなに言ってるかわからないよ」
うん、僕も自分でなに言ってるかわからない。
「とにかく、可能性を潰すにはこの方法が一番手っ取り早いはずだぜ。必要なことなんだ。もし、僕以外に男の娘がいるのは、それこそ考え得る限りの最悪なケースだ」
「それは……そう、だね」
「レイラちゃん以外の子は、それで確かめられるけど、レイラちゃんのおっぱいを揉んで確認する係は桜島さんに頼みたいんだ」
「ふぇ!? あの子の確かめる必要ある?」
冬だというのに、薄手の白いワンピースで、その胸の谷間を惜しみなく晒すレイラちゃん。見ればパッドは付けていないし、女なのはわかる。
「一応だぜ一応。もし、桜島さんがやらないなら僕がやる」
「わー! それはダメ! 絶対ダメ! ボクがやるよ!」
「よし、決まりだぜ。まず、レイラちゃんに協力を取り付けるとしよう」
「な、なにか武器は持っていた方がいいかな? もし、赤目くん以外に男の娘がいて暴れたら……」
「僕が頑張って押さえることにするぜ。これでも僕は男だから頼ってくれてもいいよ」
「赤目くんは精神をえぐりあう喧嘩は強そうだけど、力を比べる喧嘩は物凄く弱そう」
「その素直な感想は、心を深くえぐるからやめて」
「あ、ごめん」
僕以外に男の娘がいる可能性を考慮して手分けはせずに、二人で一緒に館内でレイラちゃんを探す。桜島さんは護衛用に部屋になぜか置いてあったハエ叩きを手にしてる。この子、時々天然入ってるよね。




