この中に1人男の娘がいる! いや、まぁ僕なんだけどね31
「お化粧も上手」
「れ、練習したからだぜ。ちょっと離れていただけませんかね?」
「いや」
まさか、気弱な桜島さんに主導権を握られるときがこようとは。
「肌もぷるぷるで、胸もボクよりちゃんとある」
「胸はパッドだから。ほら、触ってみなよ」
「あ、ほんとだ。でも、パッドを入れる女の子はいるだろうし、まだ信じられないよ。男の子の香りをにおえれば信じられるんだけど……」
桜島さんの目が僕の下腹部に向けられてるのは気のせい――じゃないよね? スカートの中を透視する勢いでガン見してるぜ。相当なむっつり変態の素質があるのではなかろうか、この子。
「さすがに僕の息子を匂わせてくれとか言わないよな?」
「ふぇ!? べ、べべべべ別に赤目さんの大事なところ見たり、嗅ごうとはしてないよ!」
バッと桜島さんが頭を上げる。それがまずかった。
「ぶほっ!?」
「痛っ!?」
桜島さんの後頭部が僕のあごにクリティカルヒットする。脳を揺さぶる鈍痛。桜島さんも相当痛かったようで、ノックダウン。
痛いだけならまだいい。問題はこの子の顔が落ちた位置だった。ちょうど赤目の薫くんがご起立している位置に、正確に着地をしてしまったのだ。
「いたた……ご、ごめん、赤目さん。って、え? 固い……ものが……これって、ひゃあああああああ!?!?」
もう一度、キレのあるアッパーカットのように桜島さんの後頭部が僕のあご目がけてやってきた。次を受けたらあごがくだける! とっさに上半身を引いてそれをかわす。
「い、今のって……」
「非常に言いにくいんだけど、男のみに付くあれだぜ」
あごをさすりながら、壁際まで下がって僕から距離を取った桜島さんを見る。
「ほ、本当に男の子だったんだ」
「こんな形では証明したくなかったけどなぁ」
「というか、赤目さんは、ぼ、ボクで興奮してたの? 襲おうとしてた?」
「いやいや、それは違うぜ! 襲うつもりは毛頭にない! 桜島さんがいちいち刺激的なこと言うから反応しちゃっただけだ!」
「刺激的なことって、ボク、変なことはなにも言ってないよ!」
自覚がないのは余計に性質が悪いぜ。
「し、信じてるからね。赤目さんは無理やりしないって」
「その信頼にこたえるために、一度クールダウンしたいぜ。このまま二人でいると、僕の理性が焼き切れそうだから夕食に行こう」
「う、うん。そうしよう。頭を冷やすのは大事だよね」
不本意な形で男の証明を終えたところで、僕達は宴会場に向かうことにしたのだった。
二人して顔をりんごのように赤くして廊下に出る。部屋よりも廊下の空気は冷たくて、それが火照った頬に心地よい。
階段を下り、一階の宴会場に向かうその途中。
バタバタと厨房の方からかけてくる彼方ちゃんの姿があった。
「彼方ちゃん、どうしたんだい?」
ただならぬ気配が漂っていたので、野次馬根性から声をかけてしまった。
「そ、それが、廊下にとんでもない物が落ちていたのですよ」
彼方ちゃんはその小さな手をぎゅっと握り、なにかを隠している。この子が持っているアイテムが気になった。
「見てもいいかい?」
彼方ちゃんは「うぅ」と唸って考え込んでしまう。小学生みたいな手に握れる大きさで、とんでもない物ってなにかあったっけな?
「隠してもいずれ伝わるですよね。いいのですよ。コレです」
ゆっくりと握られていた手が開かれる。
「なに、これ。見たことあるような……ふぇえ、これって!?」
パンドラの箱の中身を見てしまったかのように、ずざざ、と桜島さんが距離を取る。
これは、えぐいぜ。少なくとも、アイドルのオーディション会場に落ちていてはいけないアイテムだ。




