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この中に1人男の娘がいる! いや、まぁ僕なんだけどね30

 如月さんから<桜島さんは冤罪の可能性>という事実の説明は行われた。桜島さんの性癖が絡むトランクスの件は、<以前使っていた人の物が紛れ込んでいただけ>と、自白があった後では若干苦しい言い訳になった。桜島さんの自白を実際に聞いていたのが、如月さん以外に僕と彼方ちゃんだけだったので、辛うじて他の子達には受け入れられた。

「あ、赤目さん、話したいんだけどいいかな?」

 日が暮れて暖色の灯りが銀閣温泉街に満ちる時間帯――夕食の前に、僕は桜島さんにお誘いを受けた。今に至るまで、この子は僕が男の娘である事実をまだ如月さんに言ってない。

 性別がバレて距離を置かれると思っていたから、お話に誘われたのは意外だった。断る理由は一切ないので、僕は快く承諾した。

「誰もいないとこで話した方がいいと思うから、ボクの部屋に行こうよ」

「密室で僕と二人きりになっちゃうが、大丈夫かい?」

「それを聞いてくれる時点で、赤目さんは無害な人だってわかるよ」

 また、根拠のない信頼だ。危なっかしいたらありゃしないよ。

「せいぜいその信用を裏切らないようにしたいもんだぜ」

 僕、これでも本能を縛り付けてる理性がけっこうな頻度でぎりぎりと悲鳴上げてるからね。

 一度は勝手にお邪魔してしまった桜島さんの部屋を再び訪れた。僕を呼ぶことを決めていたようで、トランクスは当然なくなっているし、昼間は脱ぎっぱなしになっていた服は片付けられていた。キャリーケースもきっちり閉められている。

 僕は座布団の上に、桜島さんは布団の上に座って向き合う。

「ま、まずお礼は言っておくよ。ありがと。ボク一人だったらあの部屋から出る決心ができなかったよ」

「半ばマッチポンプだし、お礼を言われるほどでもないぜ」

「素直に受け取ってくれてもいいのにぃ」

「それもそうか。うん、お礼を言われてうれしいぜ」

 桜島さんがもぞもぞと足を組みなおす。

「そ、そしてだね、一つ言っておかないといけないんだよ」

 ほっぺたを赤く染める桜島さん。恥ずかしさを誤魔化すかのように自分の三つ編みを左手でいじくりまわす。

「ボクはトランクスのにおいを嗅ぎながらえっちなことはしてないよ! 絶対! 絶対に! そこは勘違いしないでほしいんだ!」

 一気にまくしたてる桜島さん。

 いや、それは――。

 やってますって言ってるようなものなんだけど。

「理想の男の子はどんなにおいがするか妄想してないよ!」

 どんどん墓穴を掘っていく桜島さん。聞いている僕の方が体が火照ってくるから、やめていただきたい。女の子の欲求の処理方法なんて僕には毒が強い。

「わ、わかった。わかったから、もういいぜ。どうどう。落ち着こうぜ桜島さん」

「わかってくれればいいんだよ」

 はあはあと肩で息をする桜島さんは百メートル走を走り切って新記録を出したかのようなやりきった人間の顔だった。きっとこれを言いたくてもんもんしてたんだろうね。

 くっ、一刻も早くこの部屋を立ち去りたい。桜島さんのもんもんは取れたんだろうけど、僕が別の意味でもんもんしてきた。だって、かわいいボクっ娘が普段どんな慰め方をしてたか、生で聞かされたんだぜ? 変態でなくても、ボクっ娘フェチでなくても、来るものがあるはずだ。

 立ち去りたいけど、立ち上がれねえ。別の部分が立ち上がってる。我が息子ながら節操無さすぎる。厚手のスカートだから問題ないだろうか。

「用事はそれだけかい?」

「まだ」と言って、桜島さんはそのくりくりした瞳で僕をまじまじと見てくる。

「やっぱり赤目さんが男の娘だとは思えないんだよね」

 桜島さんが布団から身を乗り出してぐっと距離を詰めてくる。

「ボク、男の子の近くにいると緊張しちゃうんだけど、赤目さんだとまったくしないんだよね」

 それは、僕が男っぽくないって意味ですか!? いや、この姿だから当たり前だけど。てか、あんまり近寄らないでいただけますかね!?

 華奢な右手が僕のほほに触れる。ぬるくなったホットコーヒーみたいに、甘ったるいぬくもりを感じる。

 今や桜島さんと僕の顔の距離は卵三個並べたくらいだ。うるっとした唇から除く八重歯がやたら煽情的だ。

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