この中に1人男の娘がいる! いや、まぁ僕なんだけどね27
八幡宮さんには協力してもらっているけど、僕は仮説を彼女には説明せずに直接桜島さんの元に向かった。開かずの扉の中にいるラプンツェル。無辜の男の娘。とにもかくにも、桜島さんを出してやりたかった。彼女だって純粋にアイドルを目指している一人だ。大きなチャンスをつかんだのに、それをふいにさせたくない。
「桜島さん」と、扉に向かって話しかける。
「なにかな?」
「君が男の娘だと言って譲らない理由はわかったぜ」
まだ仮説なのだけど、あえて断言する。
「ボクが男の娘だってうそをついているって言うの? あ、ありえないよ」
「そのありえないを今から僕が語ろう。これから話すことは、まだ他の誰にでも話していないから安心してもいいぜ」
「……」
息をのむ桜島さんの緊張が僕にも伝わってくる。うん、身悶えするような<この事実>は誰にもバレたくないだろうからね。
「桜島さんが男の娘の証拠――トランクスだけどさ、あれ、におい嗅ぐために持ってるだけでしょ」
「ううううっ~~~~~~!?!?!?!?!?」
悶絶。わかりやすい反応をしてくれると、仮説に自信が持てる。
「そ、そんなわけないよ! それじゃあただの変態だよ!」
「でも、トランクスにはまるでハンカチみたいな綺麗な折り目があったぜ。桜島さんのカバンの中にあった下着には、折り目はなかった。そして、トランクスと同じような折り目があったのは、ハンカチだ」
「ぼ、ボクの荷物を見たの!?」
「うん。悪いけど、見させてもらったぜ」
「酷いよ! プライバシーの侵害だ! うぅう……」
桜島さんが悲鳴じみた声をあげるけれど、僕は構わずに続ける。
「桜島さんは、バスの中で初めて僕と話すとき、落ち着くためにハンカチのにおいを嗅いでたよね。だから、トランクスも同じ用途で使ってるでしょ」
「ぎゅぅうう……」
桜島さんのライフをゴリゴリ削っていく。手荒くなるけど、手っ取り早く心を折って肯定させよう。
「桜島さんってさ、彼氏とかいるの?」
「いないよ! ボクみたいな人にいるわけないじゃない!」
桜島さんの心の底からの叫び声だった。逆にいないことに驚きだよ。学校じゃあ告白された経験も多そうなんだけどね。
「うーん、だとすると、この点は仮定が外れたかなぁ。彼氏さんがいて、安心するためにその人のにおいを嗅いでいると思ったんだけど」
「ボクは変態なの!?」
「現状、僕は桜島さんはなかなかの変態だと仮定してるぜ」
「赤目さんはもっと優しい人だと思ってたのに」
「桜島さんのために心を鬼にしているだけだぜ。とにかく、大事なのは履くために使っていないという点だ。男の娘であると主張するのは、においを嗅ぐ用のトランクスを持っていたのが恥ずかしいから。そんな特殊性癖がバレるくらいなら、男の娘でいた方がいい。そんなとこでしょ。これについては間違いないはずだけど、なにか反論は?」
「うぅうぅ~~」
唸り声を上げる桜島さん。扉で隔てられて姿は見えなくても耳まで真っ赤にしている姿がまざまざと僕の目に浮かぶ。