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この中に1人男の娘がいる! いや、まぁ僕なんだけどね25

「行くわよ」

「どこへ?」

「あんたは、桜島のとこに無実を証明しに行くんでしょ? 時間が惜しいわ。さっさと来なさい」

 時間が惜しいと体でも言い表すように、早足で廊下を歩きだす。僕はあわててその背中を追った。

「手伝ってくれるの?」

「僕ちゃんは、結果を得るために努力する人間は好きよ。その努力を踏みにじる現状があるなら、僕ちゃんはそれを許さない。それだけよ」

「……」

「なに意外そうな顔をしてるのよ。ぶん殴るわよ」

「ごめんって」

 桜島さんが監禁されている物置部屋は、廊下の端っこにある。古ぼけているが、しっかりした木の扉が南京錠によって閉められている。その扉を僕がノックして「赤目だぜ」と言う。

「……なんの用かな」

 扉の奥からこもった桜島さんの声が響く。

「寒くない?」

「もともと客室だったみたいで、空調機は置いてあるよ」

「なら、よかったぜ」

 扉越しでは、桜島さんがどんな顔をしているのかは想像つかないけど、扉に背を預けて体育座りするあの子の姿を思い描いた。

「単刀直入に聞くぜ。君は、本当に男の娘なの?」

「あたりまえだよ。だから、捕まってるんだ」

「あんた、それでいいのかしら。アイドルになってみんなに認められたいって言ってたわよね。あの言葉は嘘なの? そんな嘘ついたやつが、陰で努力するのかしら」

「赤目さん、誰にも言わないって約束したよね」

「うっ……その点についてはごめん。口が滑った」

「もう」と、桜島さんが不満げな声を漏らして、ため息をつく。

「とにかく、ぼくは男の娘だよ」

 その主張は変えない気だ。一体なぜ、頑なに男の娘であろうとするんだろう。<桜島さんが男の娘でない>と証明しなければ、監禁部屋からこの子が出てくることはなさそうだ。

「赤目、一回引くわよ」

 たぶん、八幡宮さんも僕と同じ考えだ。てこでも動かない桜島さんを動かすには、それなりの用意がいる。

「あの態度、むかつくわね。男の娘じゃないなら、さっさと言いなさいよ。時間の無駄もいいとこだわ。もともと桜島の自白がなければ、監禁まではいかない状況だったはずよ」

「うん、それについてはマイルドに同感だぜ」

「あんた、如月と彼方から詳しい状況を聞き出せないかしら? 僕ちゃんは知っての通り、如月と仲が悪いから話せないわ」

 喧嘩吹っ掛けたのは八幡宮さんだし、その仲が悪いは、おそらく八幡宮さんから如月さんへの一方向のベクトルのはずだぜ。

「了解したぜ」

「じゃあ、頼むわよ。僕ちゃんは僕ちゃんで、他の奴らから桜島の動向を探ってみるわ」

 各々の役割を決めて僕達は二手に別れる。さっきまで如月さんと話していた部屋に逆戻りする。

「聞きたいことは聞けましたか?」と、ソファに座って優雅に紅茶を飲んでいた如月さんは言った。不安要素であった男の娘が捕まって心の余裕ができたのだ。

「微妙なところだぜ。如月さんは、桜島さんが男の娘だと思うの?」

「桜島の部屋からトランクスが出てきましたし、本人が言っているのなら、間違いないはずですが」

 そうだろう。それはごくごく普通の反応だ。僕も、僕自身がこの旅館に侵入した男の娘ではなければ、疑いもなく如月さんと同じ思考に至っていただろう。

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