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この中に1人男の娘がいる! いや、まぁ僕なんだけどね22

 面談が終わったら今日の選考に関わるスケジュールはおしまいだ。過密スケジュールではなく、過疎スケジュールだなぁ。

 また時間ができたので、僕は桜島さんと休憩室で一緒にたむろしていた。二人とも、ソファーに深々と腰かけてぐだぁっとしている。

 ボクっ娘の中に一人男の娘が混じっている。その犯人はもちろん僕なのだけど、調査役を引き受けてしまった。

「いよいよおかしなことになってきたぜ」

「なにがかな?」

「いや、独り言だよ」

 不思議そうに、小首をかしげる桜島さんは、近寄ってくる犬の頭をなでたくなるような可愛さがある。

「そういえば、桜島さんは面談どうだった?」

「う……」

 魚の骨をのどにひっかけたような反応があった。

「きょどっちゃった」

 如月さんの質問に、口をあわあわさせて慌てふためく桜島さんの様子が容易に想像できる。

「赤目さんも失敗した?」

「僕に失敗してほしかった?」

「その様子だと、うまく面談を切り抜けたんだね……。半分してほしくないし、半分してほしかったよ。赤目さんはいい人だから、オーディションで最高の結果を残して欲しいとも、失敗してくれないとボクの勝てる可能性がなくなっちゃうとも思う」

「そんなことはないぜ。桜島さんは、誰かの失敗を望まなくてもここにいる誰とでも対等に戦える」

「ありえないよ」と、優柔不断な桜島にしては珍しく断言する。自分を卑下することに関しては、自信があるみたいだ。

「どうしてそんなに自分の評価を低く見積もるのさ?」

「ボクは人生において平均以上の結果を一度も出したことはないからだよ。勉学に励んでも絶対に学年の半分以上の順位にはならないし、運動に打ち込んでも市大会の一回戦すら突破できない。ゲームを極めようとした時期もあったけど、たとえば大乱闘ゲームでも相手にフルに残機を残されたまま倒されるなんて稀によくあるよ。これでも、いろんなことをやってきたつもりだよ。いろんな人を見てきた。それだからこそ確信したんだ。ボクのスペックは圧倒的に他の人よりも低いって。努力しても無駄だってのは、よくわかったよ」

 自己評価が低い理由はわかった。

 けど、努力しても無駄だなんて、本当は思ってないはずだ。

 この子はアイドルのオーディションに来ている。挑戦している。認められたいとあがいている。

 なんだろう、桜島さんってじれったい子だ。

 返す言葉を思案していると、休憩室の外の方でパタパタと軽くも騒がしい音がした。それが休憩所に駆け込んでくる。この伊吹壮の女将である彼方ちゃんが血相を変えて休憩室を見渡した。小学生じみた見た目に似合わず、その目は血走っていた。

「如月はん、ここにいたのですよ! 男の娘が!」

 叫ぶ。彼女の手には、護身用の木刀が握られている。

 僕は身構えてしまう。なぜ、このタイミングで僕が男の娘だと特定された? 

 さっきの面談でまずいことを言っちゃったのか?

「動くなですよ!」

 休憩室の出入り口は一つしかなく、木刀を上段に構えた彼方ちゃんがふさいでいる。その構えは素人目に見ても美しく、彼女が過去に剣道を習っていたのだと直感的にわかった。体格は小学生のそれだけど、僕が仮に強行突破しようとしても、できるかどうか。剣道三倍段なんて言葉がある。剣道の有段者は、剣に準ずる物を持つと段位掛ける三倍強くなるという話だ。

 そして、そもそも、この子を突破できたとしても、どこに行けばいいのか。銀閣温泉街は吹雪に見舞われてクローズドサークルと化しているのに。

 僕は観念した。両手をあげて「お手上げだ」と、言おうとしたときだった。

「赤目はんははやくこちらに来るですよ! 危ないのですよ!」

「?」

 まるで僕を守ろうとするかのような彼方ちゃんの言葉の意味を一瞬理解できなかった。

 よくよく見れば、彼方ちゃんの警戒する視線は桜島さんに向けられている。

「桜島日鞠! 男の娘であるのはわかってるのですよ! 観念するですよ!」

 桜島さんが男の娘――?

 ありえない。男は間違いなく僕であり、桜島さんが生物学的にオスというのはありえない。

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