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この中に1人男の娘がいる! いや、まぁ僕なんだけどね21

「し、仕方ないよ。過去にあんなことがあったんだ」

「知っておられるのですか」

 如月さんのちょっとディープなファンなら、誰でも知ってるけどね。

 如月菜々は一人のストーカーによって、そのアイドル生命が断たれた。アイドル界隈にはストーカー問題は付き物だけど、彼女の案件ほど奇妙な例を僕は他に知らない。犯人は結局正体がわかっておらず、幽霊ストーカーなんて呼称されている。その幽霊がやってきた行動は奇妙で、不可思議だ。その事例はいくつもあるが、例を挙げるとすれば、<以前に如月さんが住んでいたマンション五階の部屋のベランダに、その日の彼女の行動を記録した写真がばらまかれていた>、<ライブ中密室だった待機部屋に動物の死体が置かれていた>、<ゲリラのライブの前日、コンサート会場に脅迫状が送り付けられた>等ある。

 如月さんは、アイドルをやめて精神的な休養を取ったあと、これらの被害を自ら語っている。ストーカーの被害者は黙することが多いのだけど、話せてしまえる辺りに如月さんの芯の強さを感じる。

 不可思議だけど、この世に幽霊がいると信じるほど、僕の頭はファンタジーに染まっていない。実際、如月さんも幽霊は男だと断じている。<たまたま乗ったタクシーの後部座席に、男の体液が付いた如月さんの写真が置いてあった>案件があるのだけど、それが根拠だ。

 現在進行形で僕は不審者になってしまったからすでに非難する権利はなくなったかもしれないけど、幽霊が如月さんにやったことは許せない。

「なにせ僕はボクっ娘が大好きで、今も昔も如月さんの大ファンなんだから知ってるよ」

「申し訳ありません」

「あ……僕こそごめん」

 如月さんは多くのファンを残してアイドルを引退したことを後悔している。それを知っていながら、このタイミングでファンなどとほざいてしまった。失態だ。十秒前にさかのぼってさっきの発言を取り消したい。

 ちょっと気まずい雰囲気が、吹雪く音と一緒に部屋に漂った。

「赤目様、一つお願いがあります」

 凛と澄んだ瞳が僕の目をじっと見つめる。そのまっすぐさに思わずしどろもどろしてしまう。

 頼みって一体全体なんなのかしらん?

「オーディションの参加者に紛れ込んだ男探しの協力をしてほしいのです。ぼくたんがあの手紙に書かれた男を探しているのは明白で、警戒されているでしょう。そこで、赤目様に手伝ってほしいのですわ」

「……どうしてそれを僕に?」

「書類選考でも、今の対談でも、あなた様がボクっ娘を愛しているのはひしひしと伝わってきましたわ。ボクっ娘を愛するボクっ娘のあなた様なら信頼できます。ボクっ娘の夢路を邪魔する男を見つけ出すために、ぜひ協力していただけないでしょうか?」

 確率で言っても七分の一。如月さんは、よりにもよってオーディションに混じる男本人に、協力の依頼を出している。

 信頼を得られたのはうれしい。うれしいけど、ボクっ娘の夢路を邪魔する男――この言葉に、心がじくりと痛んだ。

 今、名乗り出た方がここにいるすべてのボクっ娘のためだけど。

 僕は迷っていた。いや、迷っているなんて言い訳はよそう。ただ如月さんに嫌われたくないという僕のわがままと臆病が発動しているだけだ。

「わかったよ。僕にできることなら、なんでも言って欲しい。他でもない如月さんのお願いだ。たとえ吹雪の中で乾布摩擦をやってこいってお願いでも聞いちゃうぜ」

 だから、僕は真実を言わず協力者の役割を引き受けてしまった。

「ありがとうございます。赤目さんの協力が得られるなら百人力ですわ」

 嬉しそうに微笑む如月さんの笑顔は、うそをついてしまった僕には、とてもではないが直視できなかった。

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