この中に1人男の娘がいる! いや、まぁ僕なんだけどね20
「座ってくださいませ」
如月さんが座るソファーと同じ物が彼女の前にある。言われるがままに腰かけた。狭い空間に僕と如月さんが二人きり、どきまぎしちゃう。
「楽にしてくださいませ。自然体でいきましょう」
さっきまで阿修羅のごとく怒っていた如月さんだが、歯を見せながらやさしく微笑んでいる。その笑みが素敵で、逆に緊張が増してしまう僕だった。
「とりあえず、ぼくたんのアイドルグループに参加しようと思った理由から聞きましょうかね。形式ばらず、話してくださいませ」
「動機――」
もちろん、アイドルのオーディションにおいてそれは必ず聞かれるのだと把握していた。だけど、あえて僕は用意をしていた返答を使うのをやめた。考えてみれば、合格するつもりはないのでダメダメな返事の方が逆に都合がいい。
「実は、僕がこのオーディションに参加したのは、ボクっ娘に会いたかったからなんです」
あえて本当のことを言ってみる。変な嘘をつく必要もないだろう。
「敬語はいりませんわ」
誰よりも丁寧な言葉で話している如月さんに言われる。ありのままでいろってことなんだろう。この人は、敬語でお嬢様風に話すのがアイデンティティーであり、素の姿だ。
「僕はボクっ娘が好きなんだ。きらきら輝くボクっ娘を見られれば、会えれば、人生が変わると思ったから、申し込んだぜ。一番大きな欲求はボクっ娘に会うってことだぜ」
アイドルになりたい人が集まるオーディションなのに、アイドルになることは二の次。あまりにも正直に言いすぎたかな。如月さんに怒られてもおかしくない。
「では、実際に会ってみてどう思いました?」と、如月さんは笑みを崩さずに問いかけてきた。
「アイドルらしからぬシビアな考えを持った人もいたけど、ここにいる人たちは例外なく素敵だと思うぜ。僕もその中に混じれて楽しいよ」
「アイドルになりたいと思いますか?」
「なれるんだったら、なりたいね」
消極的な答え。きっと面接点はおそろしく下がる返答だ。ダメの模範解答。だが、それで構わない。
ボクっ娘アイドルになるなんて性別的に無理だけど、憧れているのは本当だ。
しばらく、平和な会話が続いた。男の娘に関するカマかけが来ると思ったけれど、それはなかった。
「あ、それと、先ほどはありがとうございます」
唐突に如月さんにお礼を言われて僕は首をかしげてしまった。
「八幡宮さんの言葉に、フォローを入れてくれていたことですわ」
「あぁ、聞いてたんだ」
「立場上、耳を澄まして会話を聞くようにしているもので、通りがかったときについ耳にしてしまいました。結果、盗み聞きのようなことをしてしまいましたわ。申し訳ございません」
「それは大丈夫だよ」
「不審者に対しては冷静に対応しなければいけないのはわかっているのです。いるのですが、そういった変質者の人が憎くて――憎くて」
如月さんの瞳にまた怒りの炎が灯る。まずいと思った僕はあわててフォローを入れる。
 




