この中に1人男の娘がいる! いや、まぁ僕なんだけどね19
お昼ご飯を食べた後、いよいよオーディションの本番が始まる。今日は如月さんとの面談だ。
「ただの面談じゃあ済まないだろうね」
僕はそう感じていた。おそらく、男の娘を探すための尋問も混じるはずだ。ボロを出せば即座にお縄。不審者に対して厳しい如月さんだから、どんな目に合わされるかわかったもんじゃない。中世に行われた魔女狩りの被害者のように酷い目にあわされかねない。
面談の順番は如月さんの方ですでに決められており、僕は一番最後だった。時間が来るまでは宴会場で好きなことをやっていていい。その時間を利用して、レイラちゃんにさりげなくカマをかけてみよ。
いろんな人のおっぱいを触ろうと部屋を行ったり来たりしていたおっぱい星人を捕まえる。メイちゃんは今日も冬に似つかわしくない生地の薄いワンピースを着ている。室内で暖房が効いているとはいえ、その恰好で過ごすのは違和感を覚える。
「おっぱい触らせてくれるですます?」
「もちろん違うぜ!」
ひまわりみたいな笑顔でとんでもないこと聞いてきやがるぜ。
「なら、なぜぼくのとこに?」
「おっぱい触らせる以外に君のところに来ちゃいけないの……」
「だめですます!」
「……」
「じょーだん!」
僕はおもふ。カマをかけるまでもなく、手紙を送ったのはこの子ではないと。だってさぁ、この子の底抜けのおばかさを見てたら、あんな回りくどい申告の手段なんてしないと思うよ。
「あんまりおっぱいおっぱい言ってると、怖い男の人が来ちゃうぜ」
「もしかしてもまれる側になるですます?」
「かもしれない」
「別にいいですます!」
「いいの!?」
「おっぱいを触るのはともだちのあかし。にほんのよき文化!」
「ねえ、レイラちゃんに誰が間違った文化を教えたの? ねえ? 僕、君にとんでもない知恵を付けた人をぶん殴りたいぜ」
「ぼーりょくはんたい!」
「暴力はしないよ。でも、この館に隠れている男の人は、危ない人かもしれないから注意するんだよ?」
「右見て左見るですます」
「それ信号わたるときの注意ね」
「右もんで左もむですます」
「脈絡がなさすぎる……。もし、男の人を見つけたらすぐに如月さんに言うんだよ?」
「わかったですます!」
レイラちゃんは、密告者じゃないってことでいいかなもう。雑な推測になっちゃうけど、この子に隠し事はできなさそうだ。それに、男の娘がいることに気づいた人間が、こんなにハツラツと人と接することができるか? 難しいはずだぜ。
「ところで赤目っチはどんなおっぱい好きですます?」
「手のひらに収まるくらいのサイズ――ってなに言わせるんだ!」
「ぼくのおっぱいいまいち?」
レイラちゃんは自分の胸をもみもみしながら、しょんぼりと下を向く。
いや、レイラちゃんの爆弾は手のひらにまるで収まりそうにないそれはそれで、男として非常にそそられるよ。
この子と話していたら僕の脳みそまで、おっぱいで汚染されてしまいそうだったが、少ししたらレイラちゃんの面談の番が来て助かった。
そして、しばらくしたら僕の番だ。宴会場は一階にあるが、面談用の個室は二階にあった。木の扉を三回ノックすると、「どうぞ」と返事がある。扉の中はレトロな洋風の部屋だった。雪が張り付く窓のそばには机が置かれており、そこでは文豪が作文している様子が頭に勝手に浮かんだ。
部屋の中央に黒革が張られたソファーがあり、それに如月さんは深々と腰をかけている。彼女は、トレードマークである青基調のエプロンドレスを今日も着ている。
 




