この中に1人男の娘がいる! いや、まぁ僕なんだけどね16
「男の娘って、男が女の子の恰好をしたアレかにゃ?」と、バーチャルアイドルの岸さんが聞く。
「その認識で間違いないですわ」
「お、男だと! 僕様はどうすればいいのだ! お、襲われたくない……」
「純潔の危機だにゃ、裸を見られたらお嫁にいけないにゃ。あ、バーチャルアイドルにその心配はなかったにゃ!」
「嗚呼、ボクさんの貞操は一体どうなってしまうのだろう! これもデウスエクスマキナの選択か」
「僕様はそんな選択はしてない!」
「佐々木嬢のことは言ってないのだがね」
「佐々木ではない! 僕様こそがデウスエクスマキナだと言ってるだろう! 天津川、貴様、実は男だろう! この僕様の推理だ! 間違いない!」
「ボクさんは男装することは多いが、男ではないとも」
岸さん、天津川さん、佐々木ちゃんの三人は対岸でぎゃーぎゃー喚いている。
「ど、どうしよう赤目さん。男の人が混じってるって。大丈夫かな? 食べられちゃわないかな?」
くりくりした瞳に涙をためながら、桜島さんの手が僕のゴスロリ衣装をぎゅっとつかむ。
「だ、大丈夫だよ」
声が上ずってしまった。夏でもないのに額に汗が浮かんできた。
「なんですます? おっぱいのぴんち?」
桜島さんや如月さんのように状況を重く見る人、レイラちゃんのようにまったく意に介さない人。反応は様々だ。
「ふん、男が混じってるね。で、主催者様はどうするつもりかしら?」
八幡宮さんにはまったく動揺が見られず、奈良の仏像みたいにどっしりと構えている。
「見つけ次第、股の下の醜い一物をカットしてステーキにして食べさせてやりますわ! ぼくたんは絶対に絶対に絶対に許しませんの」
きっと、今まで怒りを抑えていたのだろう。如月さんは髪を振り乱して怒り狂っていた。
「あぁ、憎たらしい汚らしい! 可愛らしいボクっ娘のふりをして紛れ込むなんて反吐が出そうですわ! ジャンル違いも甚だしい!」
僕の股の下についている如月さんいわく<醜い一物>がひゅんと縮む。
どうして男なのがバレたんだろう?
「どうするのかしら? 今から男の娘探しでもするの?」と、八幡宮さんは続けて言った。
「おっぱいかおちんちん触れば解決! ぼくに任せてですます!」
その調査法は単純ながら一番効く。おっぱいソムリエのレイラちゃんなら、胸を触れば一発で僕が男なのを看破するかもしれない。やっぱりこの子は僕の天敵だ。
「その方法は却下しますわ。愛らしいボクっ娘が汚らわしいアレを触るだなんて考えただけでも身の毛がよだちますわ」
レイラちゃんの案が通ってしまったら僕は万事休すだったけど、如月さんのボクっ娘に対する愛と異常なまでの男嫌い、そして潔癖症に救われた。
「別の方法で魔男を見つけて、五右衛門風呂に入ったかのような苦痛を味わわせてやりますわ」
……温泉街でそれは現実になりかねないよ。
「汚染物質を見つけ出すまでぼくたんたち運営側で厳戒態勢を取りますが、わざわざ女装してオーディションに紛れ込んでくるハイレベルな変質者です。みなさまも自衛を怠らないようにしてくださいませ」
楽園だったこの温泉街が、地獄へと反転した瞬間だった。今すぐにでも出ていきたかったけれど、外でゴウゴウと唸る吹雪がそれを許さなかった。
注意喚起をしてその場は解散になった。如月さんが放つぴりぴりとした空気から逃げ出すように、一人、また一人と宴会場から出ていく。僕もすぐにでも消えてしまいたかったので立ち上がる。
「赤目さん」と、桜島さんに引き留められた。
「あの、潜んでる男の人が怖いから……その、一緒にいてくれないかな?」
その男の人は僕なんだよ。