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この中に1人男の娘がいる! いや、まぁ僕なんだけどね11

「如月はん、少しお耳に入れたいことがありますよ」

「どうしましたか?」

「外が吹雪ふぶいてきたのですよ。予報を見る限りは、みなさんが帰るころには収まると思いますが、しばらくは銀閣温泉街からは出られないのですよ」

「問題ないと思いますよ。もともと、泊まり込みをしてもらうつもりで来ていただいてますので」

「ひゃー、リアルクローズドサークルにゃー」「これが舞台なら殺人が起きて、そして誰もいなくなる展開に違いないな。レディ達、お気をつけて」「僕様こそがその真犯人になるのだ! この物語を終わらせる機械仕掛けのデウスエクスマキナはやはり僕様……!」「よくよく考えたら、ぼくにゃんはバーチャルアイドルゆえ関係なかったにゃ」なとど、向こう岸のボクっ娘達は吹雪で銀閣温泉街から出られなくなったけれど、特に危機感は抱いていないようだった。ま、ミステリー小説の定番みたいに殺人が起きたら笑いごとにならないけど、多少里に帰れない程度なら襲るるに足らずだ。

「この通りですわ」

「みなさん図太いようでなによりですよ」

 それからも、吹雪の夜に宴会は続く。

 僕、桜島さん、レイラちゃん、そして八幡宮さんと、その対面に並ぶ天津川さん、佐々木ちゃん、岸さん。距離感が近いグループで主に話していたけれど、僕は対岸にいるボクっ娘とも話したかったので、タイミングを見て三人の元に向かった。

「貴様はデウスエクスマキナとしてはまだまだだ! 僕様の弟子にしてやろう」と、銀髪赤目の佐々木ちゃん。

「確かに、ボクさんは演者としてはまだまだ未熟だ。一考しておこう」と、男装をするイケメン美少女の天津川さん。

「にゃー、佐々木は人間として未熟な気がするにゃー」と、ディスプレイ上で生きる猫娘の岸さん。

「僕様はデウスエクスマキナだと言っているだろう!」

 わいのわいのと楽しそうに三人のボクっ娘は会話をしていた。

「む、赤目嬢、どうしたのかね?」

「君たちとも話してみたいなと思ったから来てみたぜ」

「それは光栄だな」

 天津川さんは立ち上がって、僕の右手を取った。そして、手の甲に口付けをする。

「なーっ!?」

 突然の行動に僕の体は感電したように硬直した。

「またやるのか」と、あきれ顔の佐々木ちゃんがため息をついた。

「おっと、驚かせてしまったかね。申し訳ない。かわいらしいレディーを見ると、挨拶せずにはいられない性でね」

 さわやかに笑う天津川さんは、女の子なのだろうけどかっこいい。僕が心まで女の子だったらときめいてしまっていたに違いない。

「ぼくにゃんは電脳存在でよかったにゃー」

「ん? 岸嬢にもできるとも。画面越しであろうとも、ボクさんは行為自体に意味があると思っているからな」

 猫娘アバターが映るディスプレイに顔を近づけていく天津川さんは、第三者からすると完全に変質者だ。

「にゃー!? 寄るなにゃ! 天津川にゃんの顔がドアップで映っててきもいにゃー!?」

 画面への口づけを天津川さんは本当にやった。

「あ、口紅がついてるぜ」

 猫娘のアバターに重なるように天津川さんのキスマークがついている。

「にゃー、汚された気分にゃ」

 僕は、おしぼりを持ってきてディスプレイを拭いてやる。

「にゃー、赤目、お前いいやつにゃー。ありがとにゃー」

「どういたしまして」

「はん、接吻された程度であたふたするとは情けないな。猫娘よ」

「はじめに天津川にチューされたときに顔真っ赤にして倒れたのは佐々木にゃー」

「デウスエクスマキナだ! あれは温泉に入ってのぼせただけだ!」

「それはそれでダサいにゃ。そもそも、そのデウスエクスマキナって名前なんにゃ。本名が佐々木花子だからギャップが酷すぎにゃ」

「うるさいうるさい!」

「その部分をあまり突っ込まないで上げたまえ。佐々木嬢は、ありきたりな名前、平凡な個性から脱するために努力をしているのだ。アイドルを目指しているのも、きっとアイデンティティの獲得の一環であるはずだ。少女の成長を温かく見守ってあげようじゃないか」

「フォローしているつもりなのだろうが、貴様の言葉が一番僕様の心をえぐるのだが! 僕様の心を読んでるような考察もむかつく……」

 どうやら図星だったみたいだぜ。だとすれば、天津川さんの言う通り生暖かく見守っていこう。

「デウスエクスマキナをチョイスするセンス、超かっこいいと思うぜ」

「本当か!? だろうだろう! 赤目、貴様は唯一僕様の圧倒的センスがわかるやつだな!」

 お世辞だったんだけど、めちゃくちゃ喜ばれた。でも、甘いお菓子を小さな子供に上げて喜ばれているようで悪い気はしない。

「僕様の凄さがわからない天津川は舞台で僕様の手のひらの上でずっと踊っていればいいのだ。舞台俳優がどうしてアイドルのオーディションなんかに来る。まさか舞台が飽きたのかね?」

「いやいや、経験だよ経験。人に観られる点において、アイドルと舞台俳優は同じだ。だが、人を魅せる方法はまるで違う。アイドルがどのように人を魅了するのか、ボクさんは勉強しに来たのだよ」

「にゃー、キス魔のくせにしっかり考えるにゃー」

「ちなみに、岸さんはどうしてアイドルを志望したの?」

「お姉にゃんに憧れたからかにゃー」

「お姉ちゃんすごい人なんだね」

「とってもとってもすごい人にゃ」

 岸さんの中の人の表情を正確に読み取っているアバターは、八重歯を見せながらにっこりと笑った。よくできてるなぁ。

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