この中に1人男の娘がいる! いや、まぁ僕なんだけどね1
「この中に一人男の娘が紛れ込んでいますわ。見つけ次第、股の下の醜い一物をカットしてステーキにして食べさせてやりますわ! ぼくたんは絶対に絶対に絶対に許しませんの」
八人の女の子が宴会場の畳の上に座布団を敷いて座っている。掛け軸が壁にかけられた上座に座る如月菜々――如月さんが長い髪を振り乱しながら叫んだ。
女の子しかいないはずの吹雪に隔離された旅館。一人の密告者によって<女子しかいない>前提が覆された。
『この中に一人男の娘がいます。被害が出る前にみなさまの力でどうか見つけてください』
丸みのある文字で書かれた手紙の内容は簡潔だった。
「あぁ、憎たらしい汚らわしい! 可愛らしいボクっ娘のふりをして紛れ込むなんて反吐が出そうですわ! ジャンル違いも甚だしい!」
旅館は如月さんが貸切っており、本来は彼女に招待された女の子以外は行ってはいけない聖域だ。そんな神聖な領域に男が混じっている。彼女が顔を真っ赤にして怒る理由はそれだ。
僕――赤目薫は、怒れる女帝からもっとも遠い席で身をすくませる。ついでに、如月さんが口にした<醜い一物>もヒュンと縮んだ。
どうして男なのがバレたんだろう?
これでも、万全の準備をしてきたつもりだ。肩にかかるまで髪の毛を伸ばした。女の子っぽい飾りとしてふりふりがついたカチューシャも被った。体のラインがわかり辛いゴシックロリータを着ている。ここに来る前も、その後も何度も何度も鏡を見直したけど、中性的な顔立ちと男子の中では低い身長も相まってかわいい女の子にしか見えない。仕草とか立ち振る舞いにだって細心の注意を払ってきた。
現在、僕は山形の辺境の地にある銀閣温泉街の中の一旅館にいる。
ここで開催されているアイドルグループ<February>の新メンバー発掘オーディションに参加しているのだ。<February>は、ボクっ娘だけで構成されているアイドルグループとして全国的に有名で、かくいう僕もそのファンだ。その選考会であるだけに、顔を合わせる女の子は全員一人称になにかしらの形で<ぼく>を用いており、それは主催者である如月さんも例外ではない。
「どうするのかしら? 今から男の娘探してもするの?」と、1人が口にする。
「おっぱいかおちんちん触れば解決! ぼくに任せてですます!」
ふざけたことを言ってるようだけど、それをやられたら僕は一発で男バレをしてしまう。胸にはパッドを入れてるけど、発言者であるおっぱいソムリエの手にかかれば偽物と看破されてしまうだろう。下半身の一物なんて触られたら一瞬で終わる。
「その方法は却下しますわ。愛らしいボクっ娘が汚らわしいアレを触るだなんて考えただけでも身の毛がよだちますわ」
ボディーチェックの案が通れば万事休すだったが、如月さんのボクっ娘に対する愛と異常なまでの男嫌い、そして潔癖症に救われた。
「別の方法で魔男を見つけて、五右衛門風呂のごとき苦痛を味わわせてやりますわ」
一刻も早くこの温泉街から出ていきたかったけれど、外でゴウゴウと唸る吹雪に僕は絶望したのだった。