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奴隷と独立戦争  作者: 成金
第一章 戦争前夜
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怒れる冒険者たち

植民地と宗主国の溝は深まるばかりであった。宗主国であるイーランド連合王国議会は本や新聞、証書に税金を課税する印紙法を制定し、植民地に同法の施行を要求した。


これに対し植民地議会は、イーランド連合王国議会に植民地側の議員が一人もいない中で勝手に植民地のみ課税することは許されないと反論、代表なくして課税なしの声が広がっていく。各地で反対運動が巻き起こり、印紙販売人を襲撃する事件が多発した。事態を重く見たイーランド連合王国議会は法律を廃案する。


イーランド連合王国の植民地に対する課税要求は止まるかに見えた。しかし、イーランド連合王国は次なる一手を打っていたのだ。





マチューセツ州ボートンのとある酒場


薄暗い酒場の中で冒険者が鼠のように集まって話し合っている。複数の煙草の煙筋が天井を燻し、滞留し、暗雲をつくる。


「これはほぼ確定だが、あの話は本当のようだ」


フードを深く被った冒険者がそう言うと、周りから唸るような声がいくつもあがる。


「連中舐めやがって・・・これはきっかけ・・塩もパンも何もかも連中の所でしか買えないようにする腹積もりだろ・・・」

「いくら何でも考えすぎだろう・・・」

「いや、連中は()()()()奴らだ・・・依頼書を剥ぎ取っただけで金をむしり取る・・・連中はうちらを鶏かなんかだと思っているに違いねえ・・・」


つい最近制定・廃案された印紙法は紙なら何でも課税対象となった。冒険者ギルドの依頼書もそうだ。あの悪法が生きていた時は、依頼書を剥ぎ取った冒険者の報酬から税金分天引きされた。そのため薬草の採集や街の清掃といった初心者向けの依頼では報酬よりも税金の方が高いため、依頼を成功させたのに逆に冒険者がお金を支払うという馬鹿げた状態を生み出していたのだ。あの瞬間、新大陸側の冒険者の大半は一気に独立派へと傾いた。


「でも、たかが紅茶の専売だろ・・・何が困るんだ?・・・」

「専売するのはイーランド連合王国の国有会社だ・・・今は紅茶だけだが、次は塩、小麦、酒、そして俺たちの剣や盾も専売になるに違いない・・・」


イーランド連合王国で新しく制定された茶法という法律について、フードを深く被った冒険者は貴族の伝手を使って掴んでいた。内容は紅茶の専売である。一見すると貴族以外の庶民にとって問題なさそうに見えるが、専売で許されるのはイーランド連合王国貿易会社という国有会社一社のみ。これが問題なく通れば、塩、小麦、酒・・・、連合王国の息がかかった会社からしか物が買えない状況を生み出す。


連合王国の都合が悪いことを植民地側がすれば、生活必需品の価格を上げる、最悪の場合、植民地に物を売らない、そういった荒技が通ってしまう未来が見える。茶法は植民地を縛る鎖だ。フードの冒険者はそのように受け取った。右手に持ったジョッキに力が入る。


それを聞いた周りの冒険者は深刻な顔つきとなる。剣を買うのに連合王国製の剣しか買えない。植民地で剣を造ることは許されず、脆弱な連合王国の剣を高値で買う。その剣では依頼を満足にこなすことができず、折れた剣を持った自分の目の前で仲間がモンスターに食い殺されていく。そんな未来が頭にちらつく。新しい煙草に火をつける。


「で、やるのか?・・・」

「当たり前だ・・・連中の船がちょうど港に来ている・・・」

「でも、連中も腕ききを用意してるだろう・・・」


冒険者は連合王国にひと泡吹かせようと考えていた。この前の印紙法の時と同じように力でわからせる必要があった。しかし前回と違うのは、襲う対象がチンケな印紙屋ではなく、世界有数の国がバックについた大会社という点だ。この前と同じようにはいかない。冒険者たちは覚悟を決めた。


「向こうの戦力とかわからないか?大鷲(イーグル)?」


大鷲と呼ばれたフードの男、この男は数少ないAランク冒険者である。職業は魔砲士。遠距離から狙撃することから大鷲と呼ばれ、ついには名前まで大鷲に変更した(冒険者登録上の名前は後から変更できる場合がある。二つ名持ちの冒険者は本名よりも二つ名で呼ばれることが多い。仕事の斡旋上、二つ名で登録した方が都合良い時もあるので、二つ名持ちの名前の変更は許されている)。


「Aランクが二人いる」

「誰だ?」

(ウィーザル)山嵐(ポーキューパイン)だ」


冒険者たちは頭を抱える。おそらく鼬は大鷲の手で何とかできるだろう。しかし山嵐の方は未知数だった。山嵐の体と大鷲の弾丸、どちらが強いのか、正直わからなかった。それに対し、大鷲は頭を上げる。フードの顔は自信に満ちていた。


「大丈夫だ。強力な助っ人を用意した」

「・・・大鷲(イーグル)が呼ぶんなら、問題ないかもしれないが、誰を呼ぶんだ?」

「ああ、Dランクだが腕は確かだ」

「D!?」


冒険者たちは、冗談じゃないと思った。Dといえばやっと一人前になったばかり、自分らよりもランクが低い。そんな奴にAランクの山嵐を抑えることができるのか。それに今回は単なる依頼ではない、自分たち新大陸人の命を賭けた訴えなのだ。そんな大仕事を任せることができるのか。冒険者たちは大鷲の正気を疑ったが、大鷲は笑いながら答える。


「大丈夫、腕は確かだ。俺よりも強い」

「何?大鷲(イーグル)よりも!?それは冗談だろ!?」


大鷲の「俺よりも」という発言に冒険者たちは驚く。大鷲のランクはA、Aランク以上の実力を持つDといえば・・・。そう思考を巡らせた時、入り口から誰か入ってくる気配を感じた。この酒場は貸切になっている。内容も内容なのでみんなが入り口の方向に顔を向けた。


「来たか。紹介しよう、Dランク冒険者の滑稽顔(ファニーフェイス)だ」

「やあ大鷲(イーグル)、遅くなったね。さあビジネスの話をしよう」


そう言って、長身白髪のクチバシマスクをした女が入ってきた。

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