ありきたりな異世界転送
ディスプレイとカーテンの隙間からの光しかない暗い部屋。ただの不登校のひきこもりである俺、音門颯汰いつものようにパソコンのディスプレイと向きあっていた。こんな生活を続けて1年半。流石に視力が低下し、眼鏡をかけるようになった。
(あ、そう言えば新作ゲームの予約しとったんやった。)
今日は[King Of Duty]略してKODという大人気シミュレーションゲームの新作の発売日だった。颯汰はKODのファンであり、勿論前作もプレイ済みだった。部屋着から外出着に着替え外にでる。11月の朝は長袖を着ていても少し肌寒い。地面には一時間程降った雨によって水溜りができていた。
颯汰は外にでるのは嫌いではなかった。だが、人と会うことが嫌いだった。見知らぬ人が勝手に通り過ぎるだけならよかったが、道を聞かれたり話しかけられるのが嫌だった。
(なるべく人通りのすくないとこにいかなあかんなぁ。今日は特に人とは話したくないし。)
「あのぉ〜。」
“フラグ”というものは案外早く回収されるものだ。横を通り過ぎた女子高生がわざわざUターンし、颯汰に話しかけた。
(フラグ回収早すぎやろ! そういや今の時間は高校生の登校時間ドンピシャやん。どうりで人通りが多いとおもたわ。ま、相手は女子高生。俺に話しかけてるとは…)
あたりを見渡した颯汰は周りにその女子高生しか居ないという事実を知ってしまった。
(まじかぁ。確認するんじゃなかった。気づかないフリでもしてればよかった。……て、いうか何だ? 何故、見知らぬ女子高生が俺に話しかけてくるんだ? モテ期到来?? って、なわけねーよなぁ〜。あのぉ。私ある程度コミュ障なんですが急に女子高生と喋れと? いやいやいやアホなこと言うなや〜。)
しばしの沈黙。
「はい…。」
(よし! 返事はできたぞ。返事は。)
「音門君だよね?」
「…はい?」
(おいおいおいおい。まてまてまてまて。俺の聞き間違いか? いやいや、確かに音門って言いましたよね? 何故ですか? 何故なんですか? 何故俺の名前知っとんですか? 焦って疑問形で返事してしまいましたよ。)
女子高生は整った顔を歪ませ明らかに困った表情をしている。
「・・・」
「・・・」
(これはヒジョーーにまずいです。この空気…俺が悪いんか? 違いますよね? ね?)
またまた、しばしの沈黙。
「覚えてる?」
女子高生は不安そうにこっちをみる。
(“覚えてる?”って、なんですか? …すみませぇん!まっっったく覚えてませぇーん。)
「あ、い、いや…。」
「そ、そっか…。 覚えてないっか。ちょっと残念だなぁ。おんなじクラスなのになぁ。」
(見覚えある制服だと思っとったけどそういうことか。)
「・・・」
「・・・」
(これ、めっちゃ気まずいんですけど〜。なんか言って場を続かせんと…。頑張れ自分! 頑張れコミュ障!!)
「あ、あのぉ。がっ……とか行か………もい…の?」
「え?」
(“え?”って、なんですか聞こえてないじゃないですか。いや、まぁ、当たり前ですよね。こんなにしゃべれてないんですからね。)
「ガッコウ」
「・・・」
(おーい!!! やってもたぁ。外国人が日本語喋ったみたいになっとるやん! やばいわ。)
今までで一番重い沈黙がながれた。
「あ! もうこんな時間! 急に喋りかけてごめんね。じゃあね。」
「じゃ…」
(っ!)
別れ際の挨拶を返そうかというときだった。かなり登校時間が迫っていたのだろう。学校の方向に急いでUターンする途中、足元がマンホールだったことと一時間程前に降った雨によって滑りやすくなっていたからだろう。女子高生は足をすべらせそのままこちらに倒れてきた。颯太は自分の胸で女子高生を受け止めた。
(おぉ〜。我ながらよくやった!)
「ご、ごめんね? ありが…」
その時だった。目の前が白く光り二人を光が包みこんだ。
(これは…アニメで見たことある展開やん! これ、あれやろ。このまま異世界転送するやつやろ!!!!)