92話
岩陰から一直線に走る何か、その先にはアルハイトがいた。
危ない!
身を翻してアルハイトをその直線上からはじき出そうとするが間に合わない。伸ばした手は遠くどうしようもできなかった。
「!」
薺。
俺よりも距離が離れていたはずの薺がそこにいた。
しかし薺はアルハイトを突き飛ばすことを選ばなかった。足元がゴツゴツとした岩だったからかもしれない。
わからない。
選んだのは自分の身を挺してアルハイトを守ることだった。
「薺!!」
飛ばされた何かを背中で受けた。
スローモーションのように倒れた華奢な体。
ドサッという嫌な音がした。
「クソ!誰だ!!」
許せない!
「俺の薺によくもやりやがったな!」
何かが飛んできたその根元の岩陰に走る。
全身が熱い。
脳が熱い。
爆発しそうな殺意。
誰だか知らねえが確実に殺す。
自分でも驚くほど高速で流れていく景色、その場所にたどり着くまでもう少しといったところだった。
雲丹
全速力で走る俺の目の前に突如として現れた。
視界は白一色。
衝撃と痛み。
俺は弾き飛ばされた。
「ハッ!ハハハッ!ハハハハ!」
蹲る俺の上から癇に障る笑い声。
「まるで野生の獣だな、人間だったらもう少し頭を使ったらどうだ?」
鳩尾に雲丹の棘がぶち当たったせいで息ができない、苦しい。
それでも何とか見上げると前髪を逆立てた男がいた。
「よくも…薺を………」
「薺?ああ、あの女のことかまさか私の針に気づくとはな。その点だけは計算外だが想定内だ、問題はない」
絶対にゆるさねえ。
殺す。
殺す殺す殺す殺す殺す殺す。
「計算外といえばお前もだよ。私の黒蜥蜴が折られるなんて初めてのことだ。魔獣で実験しておいたんだけどな。馬鹿にピッタリの頑丈な体じゃないか」
許さない。
殺す。
コイツは絶対に殺す。
痛みを無視して飛び掛かろうとしたその時ーーー
背中を突き刺す強烈な痛み。
「馬鹿は本当に頑丈だな全然刺さらないじゃないか」
大きな黒い棘がゆっくりと倒れていくのが見えた。
「刺さったのは表面だけか………まあいい問題はない」
「殺す殺す殺す殺す………」
「ハッハハッハハハッ!まだ喋るだけの元気があるか!本当に頑丈だ」
立ち上がろうとした右足の太腿が痙攣する。
膝から下の感覚がない、まるで長時間正座をしたときみたいだ。
目が霞み頭がくらくらする。
「ようやく聞いてきたか」
声の主を睨みつけると男は薄ら笑っていた。
「私の棘はただ突き刺すだけじゃない毒が含まれてるんだよ!」
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