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9話 -Side story-

大司教バレルのサイドストーリーなのでスキップしても本筋には影響ありません。

 


 両方の掌の上に乗せた白い箱を、微笑を浮かべるながら見つめる大司教パトリアルクス。


 たかだかこの箱を届けるというお使いのような仕事を持ち込んでくるという事は、相当重要な物なのだろう。しかしあの箱に何が入っているのか、全く見当がつかない。


 長い沈黙が恐怖心をあおる。


 聞いてはいけない質問だったのだろうか。効かないでおくべきか?否、これは絶対に知っておかなければならない。嫌な予感がする。後で取り返しのつかない事態に巻き込まれないよう、全てを知っておかなくてはならない。


「これはね・・・勇者召喚玉」


「っ!!」


 驚きで息が詰まった。


 勇者召喚玉だと!?


 この男・・・・・


 危険人物だ。


 この男の話に乗ってはならない。


 危険すぎる


 なんとしてでも断らなくてはならない。


 なぜなら・・・


 なぜならこれは


 人の命が簡単に消し飛ぶ類の話だ。




 勇者召喚玉とは文字通り、勇者を召喚することができる魔力を秘めた宝玉。


 決して人の手では作り出すことができず、迷宮の深部でしか手に入れることはできない宝玉。しかも通常の召喚術の場合と違い、犠牲を払うことなく召喚することができる夢のような代物である


 ほとんど伝説のようなマジックアイテムではあるが、ひとつの大きな問題がある。これは禁制品であり取り扱いに関して非常に厳しく制限されている


 現在、主要な国々が加盟している国際法において勇者召喚は禁術とされており、この勇者召喚玉もその法において使用はおろか所持さえはっきりと禁止されている。


 なぜ勇者召喚が禁止であるのか、それには理由がある。


 まず通常の方法による勇者の召喚の際には、数多くの魔術師の生贄が必要となる。何の罪もなき魔術師たちがこれによって数えきれないほど命を絶たれている。


召喚時に浮かび上がる魔法陣、その近くにいる魔力を持った者の命を吸い上げるのだ。過去の勇者召喚では1回の召喚で数百人の命が消えた。まずはこれが大きな問題。


 それに加え理由はまだある。


 確かに勇者は常人では考えられないほどの戦力を有する。そのためにこの命の重さが軽い世界において、勇者という巨大な力を味方にできることは、果てしなく大きな事ではある。


 魔物、魔族などの侵攻や、人間同士の戦争や争いなど、この世界において死とは常に身近にあるものだ。そして誰しもが死にたくはない。だから身分や年齢を問わず全てのものが、強力な力を持った味方が欲しいと考えている。


 しかし、召喚した勇者が必ずしも従順であるとは限らない。過去には縛られることを嫌い単独で国と戦い、数多くの死亡者を生み出し、結局国が倒れるという大きな事件を巻き起こした歴史がある。


 巨大な力を持った者が、常に他人の下でいいように使われ続けるという事がそもそも無理な話なのだ。


 尚且つ勇者が従順であったとしても、勇者という存在を味方につけたものは増長し、必ず大きな戦を生み出す。


 今まで戦など一度もした事が無く、自分の領地を守ることしか考えていなかった国王が勇者を得たとたん好戦的になる。もはや周辺の国々に頭を下げたり、妥協したり、譲り合うなどの我慢ができなくなってしまうのだ。


 他国に戦争を仕掛けてしまう


 勇者の圧倒的な力は、数の利を破壊し、戦術の差を跳ね飛ばし、勝つことができてしまう。そして勝利した国は、負けた国の国土、金銭、または国そのものを吸収して巨大な富をえることができる。そうすると、いままでの堅実な身の丈に合った生活に戻ることはもうできなくなってしまう。


 つぎつぎと他の国に戦争を仕掛け、世界の頂点に君臨することを夢見ることになってしまう。そしてその欲は身が亡ぶまで終わることはない。


 我を捨て、世界の平安の為にその力を使うほど人間は賢くはない。それはどこの世界であろうとも同じことなのだ。


「なぜ・・・」


 だがしかし、バレルにはそんな問題はどうでもいい事。自分が危険が及ばなければそんなものに興味はない。問題なのは、それほど重要な案件に自分が関わらなければならないのか。それだ。


 禁制品は例外なく全て破壊処理する。それが国際法に定められたルールのはずだ。もしこれを破れば世界中の国々から非難を受け非常に重い罰を受けることになる。


 その禁制品をパトリアクスは「これをある人物に渡してくる」と言った。


 これは明らか国際法違反。しかもそれを知っていてあえて破ろうというのだ。これが発覚すればプーチャル教の司祭と言えどもそんな肩書は何の効力もなく、極刑は免れない重罪、つまりは死刑である。それを簡単な案件とはふざけた話だ。


「その理由を一言で説明することはできない」


 ぬるりとした蛇のような目が自分を見ている。観察されている。バレルはそう思った。自分がしり込みして逃げ出さないか窺っているに違いない。

 

この男は、プーチャル教総大司教という世界最大の宗教団体の幹部という十分な地位と名誉を持ちながら、なぜこのような自殺行為とも言える行動をとろうとするのだろうか?


「しかしあえて言うならば教皇様の御意向なのだよ。これは」


「っ!!!」


 再び息が詰まる。呼吸とはこんなにも難しいものなのだろうか。



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