85話 -猫は雷が嫌い-
夕方から夜にかわりつつある時間帯。
「見ろロアン、ピネル、やっぱり建物があるぞ!」
「坊ちゃまそれ以上近づかないでください」
「なんでだよ!」
「なんでって考えりゃわかるだろハイト、とんでもなく怪しいじゃねえか」
大自然の中で声が響く。最初の声は子供っぽさのある声で、次の声はだいぶ年齢を重ねた声、最後は若い女の声だ。
ここの場所は王都マドキイタントから徒歩で2、3日の距離にある平原。王都からそれほど遠くないと言いつつも人影は全くない。
倉庫。
土地が悪く農業に適さないこの地は旅人が行き来する道としての機能しか持っていない。いわゆる不毛の地にたった一つだけの建物。
「だってさあ、ほら見ろよ」
ハイトと呼ばれた少年が広げた両方の掌の上にはぽつぽつと雨が落ちてきていた。
「そりゃわかるけどさあ」
「テントの準備をします。多少は濡れるでしょうが致し方ありません。アルハイト様はこの軒下で待っていてください」
「火は起こせそうにないから干し肉と果物だな、今日の晩飯は・・」
「えー、テントよりあの建物のほうがさー」
「わがまま言うなよハイト、夜の森には魔女が住むんだぜ。あれだって魔女が住む建物かもしれないんだぞ」
「そんなの子供を怖がらせるための迷信だろ」
「迷信だとしても夜が危険なことには変わりありません」
「ラリーだって嫌だろ?雨は」
少年は自分の下腹部の盛り上がりを撫でながら言った。
「さあ、野営の準備をしよう」
「はい」
雷鳴。
「あ!ラリー!」
白い猫が少年の服の中から飛び出した。
「後ろ!!」
ケイシの緊迫した声に振り向いたピネルの目には世にも恐ろしい存在がいた。
服を着たアンデット。
ピネルが驚きの声を上げるよりも早くロアンは手に持っていたステッキを使った突きをすでに放っていた。
肉体的には衰えていても踏んできた場数が違う。無くした体力の代わりに先手を取ることの重要性は体に刻み込まれていた。
バンッ!
アンデットは弾いた。
その手には剣が握られている。
「マジかよ!」
弾いただけではない。
ケイシの杖は長さが半分ほどになっていた。
「油断するなピネル」
油断。
するはずもない。
ピネルの目には切られた杖の断面に金属が見えている。
ロアンの杖は特別製で木の杖に見えるがその中心には金属が入っている特別製。だから相手を油断させつつ、剣と打ち合っても全くそん色のない武器であることをピネルも知っているからだ。
やるしかない!
ピネルの周囲が揺らいだ。
評価、ブクマ頂ければやる気が出ます。
よろしくお願いします。




