81話
「随分暴れてくれたな」
程よく日焼けしたなかなかにハンサムな中年男が言った。せっかくのハンサムな顔も今は苦し気に歪んでいる。
「げほっ」
「ぐぐぐ・・・」
床には倒れこみ苦悶の表情をする大勢のものたち。そろいもそろって悪人面だし武器も血もそこいらじゅうに飛び散っている。
俺が叩きのめしてやったからだ。
ここにいる俺と薺以外の全員がマフィア。この国で有数の規模のマフィア。その本拠地がここだ。
後悔は全くしていない。
むしろ嬉しいくらいだ。
自分が強くなったことを実感できる。手加減して殴ってやってるのにどいつもこいつも簡単に倒れていく。どうせこいつらは社会における屑。
この程度じゃ足りないな。もっと痛めつけてやろうか。
ん?
視線。
薺の視線が向いていることに気が付いた。
「薺どうした?」
「・・・」
なんでもない?
気になる。
俺に対して何かを思っている気がする。そんなに強くは思っていないはずだが確実に何かを考えている気がする。
嫌な予感。
周囲からマフィアなんてものが薄くなっていって薺という存在がものすごく気になってきた。
勇者。
うをっっち!
汗が出た。
今の考え方、マズかったかもしれない。あまりにも悪魔的だった。
冷静になれ。
駄目だ駄目だ、あまりにも暴力的すぎる考えは良くない。お前の隣には勇者がいるんだぞ。
向こうから手を出してきたから反撃しただけ。それだけだあんまりひどいことは考えるな。
「こんな真似をしてただで済むと思ってんのか」
マフィアのボスが言った。
目には冷酷な色。
できる事ならとっくこの男は俺たちのことを殺しているだろう。
こんな状況であるのにもかかわらず余裕であるかのようにふるまっている。ボスとしての威厳?それとも後ろ盾のアピール?
普通の人間なら恐怖で縮み上がっているんだろう。
普通ならな。
弱い。
俺にとっては全くの迫力不足。勇者の存在感の前には虫けら同然。
「死ねや!」
倒れていたはずのマフィア。
背後でいきなり立ち上がり、俺の後頭部目掛けてナイフを突き出してきた。手慣れている。今までに何度も人間を刺してきているんだろうな。
だが、
遅すぎる。
躱して鳩尾に右フックを叩き込んだ。確かな感触。内臓を損傷したのは間違いない。ゴボッという音を出しながら倒れたやつを踏みつけた。
そうか。
目の前のハンサムなボスがわざわざ喋ってきたのはそれのためか。
後ろに倒れているやつが意識を取り戻したことに気づいたから、注意をそらすためだったに違いない。
「先に仕掛けてきたのはお前らだ。5分以内に全員皆殺しにしてやろうか」
首を掴んで少しだけ指に力を加える。
メキッという嫌な振動。
「ぐをおお………」
・
・・
・・・
・・・・
ソファに腰を下ろして少し前の行動を思い出す。豚の圧力で買い物ひとつまともにできなくなった。
それならばまともじゃないルートを使うまでの話。つまりはマフィア。奴らのことを利用して必要なものは手に入れればいい。そう考えた。
金はある、そして力もある。だからこそ使うことができるルート。しかし奴らはプライドが高かった。俺の命令になんて従う気はさらさらなかった。
怒り心頭のやつらは話し合いに応じることなく暴力という手段を使ってきた。
たったふたりの俺たちに対して大勢でだ。
制裁。
手を出してきたのは向こうからだ。だから制裁を加えてやったのだ。
「明日出発する」
「・・」
「王都マドキイタント、このテンスター国の首都だ。早馬で一週間ほどかかるらしい。早馬には乗った事が無いからわからんが2週間くらいの野宿は覚悟しておいた方がいいかもしれない。大丈夫か?」
「・・」
「そうか。まあ、物だけは揃えたから前ほどきつくはないと思うが」
「・・・」
「強いな、薺は」
強い。
だからこそ安心してマフィアに乗り込むことができた。この部屋だってあいつらが用意した部屋だ。そうじゃなければ野宿だったところだ。
ずぅ、、
黒部 圭太の目の前に3mほどの黒い闇が出現した。
「忘れ物はないだろうな、何かあったらマフィアに調達させないと………水、食料、ベッド………」
黒いタッチパネルをスクロールしながら収納しているもののリストを確認していく。そこには数量も記載されている。もちろんその中には金貨、銀貨、銅貨の項目もある。
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特殊スキル「黒渦 to Dive」
〇異空間との扉を開き、物を収納することが出来る。また、無人ショップで商品を購入することが出来る。
〇異空間内は時間が停止しているため、収納した時点と全く同じ状態で取り出される。命あるものは収納することが出来ない。
〇購入することが出来るものはスキル使用者が目にしたことがあるもの。実物だけではなく映像として見たものも含まれる。購入するために使うことが出来るのは魔石のみで、その中に封じられた魔力の強いものほど価値の高いものを購入することが出来る。売却で魔石を得る事はできない。
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新たな能力。
一部の悪魔は他者の魂を喰らう事で我がものとし、力を増す。
突然変異種のオークの魂を取り込んだことで得た。無能には劣るかもしれないがすさまじく良い能力だと思っている。もしかしたら強い魂のほうがより良い能力を得ることが出来るのかも知れない。
「・・・」
「そうだな、寝るか」
いつもは2人部屋なのだがマフィアの奴が一部屋しか取れないとか言い出した。教会に見つからないようにするには一部屋が限界らしい。分かるようなわからない様な理屈だが仕方ない。教会の奴らに突入されては迷惑だ。
新たに得た能力を思いながら部屋の光を消した。




