74話 -袈裟斬り-
「なんで俺がここに来たかわかるか?」
決意のモントドール。
目を合わせず、歩きながら黒部 圭太はポツリと言った。
「ケイタ君・・」
「確かめたくてな。おまえが馬鹿なのか」
戦場において相応しくない質問。そして意味の解らぬ答え。
ドン!
手刀をモントドールの首に叩きこんだ。
「何を!?」
ウサイトの首にも。
魔物を見る。
突然変異種、Sランク以上と称されるオーク。暴力、踏みにじるもの。まさに化物、まさにモンスター。人間にとっての脅威。
だがそんなもの、圭太にはどうでもいい事。
興味が無い。
もはや人間ですらない圭太には、他人の命などさしたる興味は無い。
興味。
確かめたかった。
馬鹿なのか。
知りたかった。
馬鹿で、いいやつ、なのか。
子供のころから打算的だった。損得勘定で行動を決めていた。損になる行動は避けた。損している奴を見下していた。
けれど、憧れてもいた。
そういう奴の周りにはたいてい人がいた。人が集まってきていた。皆が友達になりたいと思う奴はたいてい自ら損をとる人間だった。
自分も同じだった。
損をするのが嫌いなくせに損をしている奴から目を離せなかった。
死なせたくない、そう思った。
それが悪魔でありながら人間の心をも持つものの思考。黒部 圭太というものの思考。
もし本当にいい奴なら死なせたくないと思った。
だから来た。
「薺!!!」
コイツは良い奴だ。
多分勝てないことは分かっている。あのオーク、炎攻撃に耐性がある。だからたとえコイツの言う通り命を燃やして炎の威力が上がったところで殺せないだろう。分かっていて選んだ。嘘をついた。
捨て石。
笑顔で捨て石を選んだ。
それは圭太にはあり得ない選択。
無い。
自らに無い。
だからこそ、眩しい。
だからこそ、美しいと思う。
確認したかった。
こいつはバカでいいやつ。
間違いない。
来てよかった。
死なせたくない。
失いたくないから。
「殺せ!」
いつもの言葉。
いつもの相手に。
ザパッ!
一瞬の空白の後、届いた回答。
溢れかえるほどのモンスターが生み出す騒音。その合間を縫って聞こえた確かな音。それは思い描いていた通りの音だった。
刃は深く、深く切り裂いた。
その音。
この戦いで初めて見せた特殊スキル「彩る流星と真実」。
己の気配を攻撃の寸前まで遮断するその能力に、オークは全く反応できていなかった。先ほどまでよりも間合いは深く、フォームも大きい。3つもある頭、その3つともが驚愕の表情だった。
モントドールの夢に出てきたという女神の予言。
真実。
このオークは未来においてメルスンの街を壊滅させ、一万人の命を飲み込むはずだった。そしてさらに力を増し、この世界の人間にとって大いなる厄災となる存在であった。
だからここで倒さねばならぬ相手だった。
悪しき運命を断ち切った。
袈裟斬り。
右肩から左腰にかけての一閃。白い光に包まれたその剣から放たれる一撃が、断ち切った。
難敵を眼前においてなお、揺るがない心が可能とする技。
洗練。
極致。
磨き上げられ、至った太刀筋の美しき事。
スローモーションのように地面に落ちた魔物の肢体が2つに割れた。表皮も肉も骨も一気に切り裂いた。
複数の技が重なり到達せし事。
知るはずもなきオーク。6つの目から生気が抜けた。
未来はあるべき道を回避して、ゆっくりと歩き出した。




